有害産業廃棄物の越境移動とバーゼル条約

    

 はじめに

 一 地球規模での環境保全

 二 有害廃棄物の越境移動

 三 有害廃棄物に対応する法システム

 四 バーゼル条約

 五 紛争解決制度と損害賠償責任議定書

 おわりに

   附録1:アジェンダ21行動計画(20)

     2:環境上健全な管理に関するバーゼル宣言

 

 

 はじめに

 目の前に、日の出(谷戸沢)ゴミ処分場をめぐる膨大な資料と訴訟記録がある。このゴミ処理場は、三多摩地域261町(日の出町を除く)から排出される一般廃棄物の巨大な処分場として、1984年に西多摩郡日の出町に開場された。この第一処分場の用地面積は、45.3ヘクタールであり、東京ドームの敷地の約5倍であり、受入のゴミの予定量は約260万立方メートルである。この処分場は、いわゆる管理型処分場であり、廃棄物からの侵出水による土壌汚染や地下水汚染から防止するために、侵出水の地下浸透を防止するための遮水工(遮水シート)が敷き詰められたもの

である。第一処分場が開場して間もなく、諸部員組合(東京三多摩地域廃棄物広域処分組合)は、平成2年第二処分場(二ッ塚処分場)を最終候補地として予備調査を申し入れた後、平成43月、処分場近くの住民が第一処分場ゴムシートに補修の跡があることが発見され、民間調査団体の調査により処分場周辺の井戸等からプラスチック添加剤が多量に検出された。これに対して、日の出町は安全宣言をしたが、平成58月住民は、公害調停の申立てをした。

 この後、アセスメント手続が開始され、環境影響評価書案が公示される。こうして、谷戸沢処分場を巡っては、平成61129日にこの処分場に関する水質データの閲覧・謄写を組合と日の出町に請求する仮処分の申立てがなされた。平成7年第二処分場建設差止等を求める訴訟(正式には、一般廃棄物処分場建設差止等請求事件)が提起された。さらに、保全取消申立事件、請求異議事件(第1次から第5次まで)、そして、間接強制金の違法支出の差止を求める住民訴訟、樹木伐採禁止仮処分命令申立事件、事業認定処分取消請求事件(強制収用)、工事妨害禁止差止等仮処分命令申立事件、行政代執行費用納付命令取消訴訟と続くのである1

 わが国内の廃棄物処理場である「日の出処分処理場」のこの著名な事件にみられるような住民と地方自治体との紛争は、外国においても共通にみられた事態である。都市の発達に応じて、廃棄物やゴミはその発生源での近くで処分されることが不可能となった。無論、その理由は多様である。例えば、都市人口の増大、都市機能の集約による環境基準や規制の強化そして処分費用の高騰である。加えて、家の近くに廃棄物処理施設が建設されることを拒否する、いわゆる人々のNIMBY症候群 (" Not In My Back-Yard "の風潮 )などが挙げられる。この上のなく危険な施設である原子力発電所の安全神話とは別に、現実には、原子炉は過疎地に建設されると同様である。その結果、ゴミ、廃棄物そしてその処分場は、人のいない所、人の目に見えない所、また、人がいても不満の声が少ない所、自分の生活区域内から他の市町村へ、そして、隣の県()へさらには他の国へと、より処分の容易な、また、規制のルーズな地域や国家を求めて移動するのである。これが廃棄物の越境移動である2

 1980年代後半に入ると、有害廃棄物の越境移動問題は、公害をもたらす企業そのものの移動と同時・同時ににますますクロスボーダーに展開されることとなる。先進国からアフリカや中南米諸国への有害廃棄物の越境移動事件が発覚し、その幾つもの実例が世界的に報道された。また、バーゼル条約発効後、わが国の業者が医療廃棄物をフィリピンに輸出した醜聞もその一例にすぎない。そして、この問題は、開発途上国を含む地球規模で対応することが必要であるという認識が高まってきたのである。

 私は、悪夢にうなされることがある。その夢とは、ある県境や国境を超えて大型のダンプがアリ軍団のように列をなして廃棄物を運送することであり、バッタのような大型船舶が公海を越えある国の河川を遡り、現地に陸揚げすることである。妄想に過ぎないのであればよいが。

 

 

 一 地球規模での環境保全

 

 第二次大戦後、先進国は空前の繁栄を迎え、工業化を遂げ、消費社会となる。しかし、その歪みである公害も顕在化してきた。わが国では、1953年に新日本窒素の有機水銀化合物による水俣病が発生した。ヨーロッパや国際社会に目を移すと、1954年に「油による海洋汚染を防止するための国際協定(海洋油濁防止条約)」が採択され、また、1958年に、「欧州経済共同体(EEC)」と「欧州原子力共同体(EURATOM)」が発足した。物質文明・工業社会の本格化とともに、今日でも環境先進国であるドイツにおいては、1960年代に至り、人間自体の危機という意識が出始めてきた。ゴミ、排出物が緊急の環境問題となったのである。ドイツ政府はイミシオーン保護法を包括的な計画法・経済指導法という方向へと展開しようとする。ところが、わが国では、四大公害病である、水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市喘息について、工場や事業所から排出された有害物質による周辺の健康被害に対する損害賠償を原因企業に求める訴訟が本格的に提起されるのが1960年代である。

 1962年、アメリカ合衆国では、レーチェル・カーソン(Rachel Carson)の『沈黙の春 (Silent Spring)』が刊行され、工業社会のもたらす生態へ致命的な結果が露わにされた。以後、1970年代には、ドイツ連邦共和国では、環境政策の第一段階として、経済の停滞、市民運動、体制批判、複数主義的価値観が呈示され、「きれいな空気」に関する環境論議が積極的になされるようになるのである。

 こうして我々の地球である「宇宙船地球号」をとりまく環境については、1972年、ローマ・クラブが『成長の限界(The Limits to Growth)』を発表し、人口の増加や環境の悪化などの現在の傾向が続けば100年以内に地球上の成長が限界に達すると警鐘を鳴らし、地球の破局を避けるために成長から均衡へ移行する必要性を唱える。また、同年に開催された国連人間環境会議において「人聞環境宣言」が採択されると共に、国連環境計画(UNEP)の設立をはじめ多くの決議・条約が採択され、締結されてきた。この間、1986年4月には、悲劇的なチェリノブイリ原発事故、同年11月にはスイスのサンド社工場大火災に伴うライン川汚染事故も発生し、環境汚染問題に対処することが一国では到底不可能であること、「汚染に国境なし( Pollution knows no boundary)」であることを人々に知らしめたのである。こうして、国連人間環境会議から20年を経た1992年には、「地球サミット」が開催され、今や、ますます、地球環境を保全する必要性が認識され、あらゆる分野の英知を集めてその実現が求められている状況にある。国際環境法の成熟もその例外ではない。

 以下では、有害産業廃棄物の処置、環境汚染の問題そして有害廃棄物に関するバーゼル条約に関連する問題について言及する前に、国際環境に係る動向を時系列に追って、地球環境への取り組み全体をみることにする。

 

 1「宇宙船地球号」(Spaceship Earth) 

 朝日新聞社発行「高校生のための現代社会」は、記す。

「「宇宙船地球号」(Spaceship Earth)という考え方を最初に提出したのは、アメリカの経済学者ケネスー・E・ボールディング博士である。1966年「未来のための資源協会」での講演で、博士はたとえ話で経済の2つの型を説明した。1つは「カウボーイ経済」で、アメリカ西部開拓時代のように資源の枯渇など全く心配する必要のなかった経済、もう1つは「宇宙飛行士経済」だ。宇宙船の中の物はすべて有限で、水も空気も食料も、特別な工夫をしない限り、いつかなくなる。人間が出す炭酸ガスや排泄物は宇宙船内部を汚染する。これからは廃棄物を生産過程に還元するようなシステムを開発し、生態系を破壊しないことが大切になってくる宇宙飛行士経済の時代だ、というのである。

 近年、この宇宙船に多くの欠陥が指摘されるようになった。酸素供給装置に入り込む様々な有毒ガス、エネルギーの限界、食料不足、飲料水の汚染、ファーストクラスとエコノミークラスの格差、船室間のいざこざ、定員の問題等、様々な問題が噴出している。さらに愚かしいことにこの宇宙船には自爆装置がやたらたくさんついている。「宇宙船地球号」の未来は、現在の乗客、とりわけ若い乗客の手にゆだねられている。」3

 この地球号とは、まさしく我々と次世代の人々が生息する、また、生息し続けてほしいと願う地球そのものの状況である。環境破壊を含むこうした危機に瀕した宇宙船を救うために、Only One Earthをスローガンに、立ち上がる人々が現れた。

 

 2 国連人間環境会議と「国連環境計画(UNEP)」の設立

 「国連人間環境会議(United Nations Conference on the Human Environment)」は、”ストックホルム会議"とも呼ばれ、「宇宙船地球号」という考え方の普及などを背景に、環境問題全般についての初めての大規模な世界会議として、197265日から、「かけがえのない地球」をキャチフレーズとしてスウェーデンのストックホルムで114力国が参加して開催された。この会議の背後には、ヨーロッパ、北アメリカ、日本などの先進工業国では、195060年代の経済発展に伴い、第二次世界大戦後のテクノロジーや経済の急激な発展、生産規模の拡大などにより、排ガス、汚廃水、廃棄物などが飛躍的に増大し公害と環境破壊が進行していること、開発途上国では貧困と環境衛生の悪化が大きな社会問題となっていたとの切実な事情がある。国連人間環境会議は、環境問題全般についての大規模な国際会議として初めてのものであり、この会議において、先進工業国における環境問題については、経済成長から環境保護への転換が、また、開発途上国における環境問題については、開発推進と援助の増強、そして、貧困と環境衛生の問題が重要であることが明らかにされた。さらに、この会議により「人間環境宣言」の採択や「国連環境計画(UNEP)」の設立などがなされた。これらの実績により、この会議は、その後の地球規模での環境保全活動の嚆矢となる画期的な意義を有すると評価されているのである。

 では、この会議で採択された「人間環境宣言」とはどのようなものであるか。

 「人間環境宣言(Declaration of the United Nations Conference on the Human Environment)」は、19726月の国連人間環境会議において、その最終日に採択された宣言である。ストックホルム宣言とも呼ばれる。この宣言は、人間環境の保全と向上に関し、「人は、環境の創造物であると同時に、環境の形成者であり、自然的及び人為的環境は、人間の生存権そのものの享受のために基本的に不可欠であるが、それらは人間の力の誤用や人口の自然増加により深刻な影響を受けている。現在及ぴ将来の世代のために人間環境を擁護し向上させることは、平和と世界的な経済発展という人類にとっての至上の目標と並び、かつそれらと調和を保って追求されるべき目標であり、そのためには市民及ぴ社会、企業及ぴ団体が、全てのレベルで責任を引き受け共通な努力を公平に分担することが必要」という趣旨の共通見解を示した上で、@人種差別・植民地主義等の排除、A天然資源及ぴ野生生物を含む自然の適切な保護、B再生不能な資源の枯渇防止と公平な分配・利用、C環境汚染の防止措置、D経済的及ぴ杜会的開発、E国の環境政策の在り方、F基本的人権を侵害しない人口政策、G国際協力など26項目の原則を掲げている。

 19726月の国連人間環境会議で採択された「人間環境宣言」及び「国連国際行動計画」を実施に移すための国連機関として、同年の第27回国連総会において設立されたのが、「国連環境計画(United Nations Environment ProgrammeUNEP)」である。既存の国連諸機関が実施している環境に関する活動を総合的に調整・管理するとともに、国連諸機関が着手していない環境問題に関して、国際協力を推進していくことを目的とするものである。「国連環境計画」の主要な事項は、@オゾン層保護、A気候変動、B廃棄物、C海洋環境保護(海洋生物資源保護を含む)、D水質保全、E土壌劣化防止(砂漠化防止を含む)、F熱帯林保全等森林問題、G生物多様性保全、H産業活動と環境の調和、I省エネルギー・省資源であり、環境問題全体をカバーする。UNEPは、国連機関、国際機関、地域的機関並びに各国と協力して活動することになるのである4

 

3 UNEPによる特別理事会の開催

 1982年、「環境と開発に関する世界委員会(World Commission on Environment and DevelopmentWCED)」が設置された。ノルウェーのブルントラント女史が委員長となり、環境問題のキーワードである「持続可能な開発(sustainable developmentSD )」の術語が創出された会議である。この委員会は、委員長である当時のノールウェー首相の名をとって、ブルントラント委員会とも呼ばれる。

 国連人間環境会議10周年を記念して、1982年に開催された国連環境計画(UNEP)管理理事会特別会合におけるわが国の提案をきっかけとして、1984年から活動を開始した賢人会議である。本委員会は、国連の決議に基づき、@2000年までに持続可能な開発を達成し、永続させるための長期戦略の提示し、A人間、自然、環境及び開発の相互関係に配慮した社会的・経済的発展段階の異なる国々の間に共通的かつ相互補強的目標を達成するための方策を勧告し、B国際杜会が環境問題により効果的に取り組むための方策を検討し、C環境問題に対する国際杜会の取組みに関する長期計画や目標に関する共通認識を形成することを使命として、3年間の活動を行った。

 その成果が、1987年に国連総会に提出された「"われら共有の未来"(Our Common Future)」と題する報告書であり、本報告書は、世界に向けて公表された。この報告書に底流するのは、「持続可能な開発」という「環境と開発に関する国連会議(UNCED)」に引き継がれた概念であった。

 

4 地球サミットの開催と「環境と開発に関するリオ宣言」

 19726月にストックホルムで採択された国連人間環境会議の20周年に当たる19926月、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで地球環境に関する国連人間環境会議20周年を記念する国連会議が開催された。21世紀に向けて人類がどのように環境と開発に関する戦略を持つべきかを議論する場所として、1989年の第44回国連総会で開催が決定されていたものである。「国連環境開発会議(United Nations Conference on Environmnment and DevelopmentUNCED)」がこれであり、地球サミット、リオ会議などとも略称される。

 この会議には約180ヵ国が参加し、100カ国余の元首、首脳と国連機関が自ら出席するなど、史上かつてないほどハイレベルかつ大規模な会議となった。さらに、8,000の非政府組織(NGO)が集まり、全参加者は4万人を超える空前の規模となったといわれる。この会議では、気候変動枠組条約と生物多様性条約の署名が開始されるとともに、環境と開発に関するリオ宣言、アジェンダ21及び森林原則声明などの文書も合意された。

 地球サミットでの会議の結果、人類共通の未来のために地球を良好な状態に維持することを目指した「環境と開発に関するリオ・デ・ジャネイロ宣言(Rio Declaration Environment and Development)」が採択された。この宣言は、各国が国連憲章などの原則に則り、環境及び開発政策により自らの資源を開発する主権的権利を有し、自国の活動が他国の環境汚染をもたらさないよう確保する責任を負うこのなどを内容とする前文及び27項目にわたる原則によって構成されている。先進国に温室効果ガス排出抑制等を求める気候変動枠組条約の署名(会期中、わが国を含め155カ国が署名)、生物多様性の保全、遺伝子資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な分配等を目的とする生物多様性条約の署名(会期中、わが国を含め157カ国が署名)、森林の多様な機能の維持、利用の在り方などについて規定した「森林に関する原則」の採択及ぴリオ宣言の諸原則を実施するための行動プログラムとして「アジェンダ21」を採択した。

 十分なフォローアップができなかった国連人間環境会議の経験から、19932月に国連経済社会理事会の下に、「持続可能な開発委員会(CSD)」が設置され、フォローアップに当たっている。この会議においてわが国は、1992年度から5年間で環境ODAを約1兆円程度とすることなど、資金的には他の先進諸国を圧倒するコミットメントを示したものの首相が出席せず、内容に見合うだけの存在感を示すことができなかった。

 「環境と開発に関するリオ・デ・ジャネイロ宣言」は、1972年の人間環境宣言を再確認し、公平な地球規模の協力関係の確立を目標としている。条約のような法律上の強制力はないが、各国の政府や国民が、地球環境を守るためにとるべき行動の基本的方向を示している。より具体的な行動計画については、「アジェンダ21」に書き込まれており、この2つは対となって21世紀の地球環境の行方に大きな影響を与えるものである。その内容を具体的にみると、人間環境宣言を再確認するとともに、人間環境宣言には掲げられていなかった、「市民は公共機関のもつ環境関連の情報を適切に入手し、政策決定に参加できる機会を得なければならない」(10原則)、「各国は効果的な環境法を制定しなければならない」(11原則)、並びに、「環境影響評価を権威ある国家機関の決定の対象にすべきである」(17原則)という原則を新たにした。

 アジェンダ21行動計画は、その第20章「有害廃棄物の不法な取引の防止を含む有害廃棄物の環境上健全な管理」でも明示しているように、リオ宣言の理念を具体化した持続可能な開発のための実際的な行動計画を定めたものであり、合計40にわたる項目が盛り込まれている。その主たる内容と項目の概要は、以下のようである(⇒附録:1)。

 T.社会・経済的側面開発途上国の持続可能な開発を促進するための貿易の自由化、貿易と環境の相互支援化、開発途上国への適切な資金供与と国際債務の処理など国際協力と関連国内政策など8項目。

 U.開発資源の保護と管理モントリオール議定書で採択されたオゾン層破壊物質の排出規制の遵守による成層圏オゾン層の破壊防止など14項目。

  V.主たるグループの役割の強化行動計画の効果的な実施に果たす女性の積極的な経済的政治的意思決定の重要性など10項目。

 W.実施手段アジヱンダ21の実施のための資金メカニズムの活用と継続的な質的改善な

ど8項目。

 

 

三 有害廃棄物の越境移動

 

 以下では、まず、わが国で発生した日の出処分場や豊島への不当投棄に勝るとも劣らない有害廃棄物の越境移動の悪名高い具体例をみることにする。

 @セベソ事件 19767月:イタリアのセベソで起きた農薬工場の爆発事故の顛末である。この工場は、スイスの製薬企業ホフマン・ラ・ロッシュ社の子会社のためにTCP(トリクロロフェノール)を生産していたが、このプラントが爆発し、反応器に含まれていたダイオキシンを含む有害物質が周辺の土壌を汚染した。汚染土は一旦ドラム缶詰にして工場内に保管されていたが、19829月に搬出された後行方不明となり、8ヵ月後の19835月に北フランスの小村で発見された。フランス政府はイタリア政府に対し、引取りを要求したがイタリア政府がこれを拒否し、事態が紛糾した。最終的には農薬工場の親会社があるスイス政府がその道義的責任から回収した。この事件が契機となり、有害廃棄物の越境移動が、ヨーロッパ域内における政治問題として展開されることとなる。

 A19884月、ノルウェーの会社が米国の有害廃棄物15,000トンをギニアの無人島に投棄し、樹木が枯れた。政府は廃棄物の引取りを要求するとともに、ノルウェーのギニア総領事を共謀の疑いで逮捕、ギニア政府関係者も逮捕された。

 B100万トンの有害廃棄物を受け入れる目的で米国大使館と連絡をとり幽霊会社を創っていたとして、コンゴ政府職員5人を逮捕(輸入は未遂)。同職員らは、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、西ドイツからも有害廃棄物の輸入を計画していた。

 C19885月、ギニアビサウ政府は対外債務の2倍の金額で英国と米国の廃棄物処理会社リンダコ社の2社と西側廃棄物の処分の契約をしていたが、人民議会などの反対によりこの契約を破棄したと発表(未遂)

 Dココ事件=カリンB号事件 19886月から翌年にかけて、イタリアの業者がポリ塩化ビフェニール(PCB)を含む廃トランスなどの有害廃棄物をナイジェリアのココ(Coco)港付近に投棄された事件である。これにより搬入者など数十名が逮捕され、ナイジェリア大使がイタリアから引き上げるという外交問題に発展した。ナイジェリア政府の要請を受けて、イタリア政府は、西ドイツ船籍のカリンB号で投棄された有害廃棄物を回収してヨーロッパに向かうが、住民の反対でイタリアに戻れず、欧州諸国にも入国を拒否されて、長期間、フランス沖の公海に停泊した。この種の事件に対して、アフリカ統一機構(OAU)は、19885月、アフリカにおいて核及び産業廃棄物を処分することがアフリカ人に対する犯罪であるとし、アフリカ大陸での有害物投棄を全面禁止するなどの閣僚理事会決議を採択した。さらに、OAUは、1991年にバマコ条約を採択することとなった。

 E19886月、シンガポールの有害廃棄物が輸入され、クロントイ港に投棄された。本件だけでなく、この港には10年以上前から廃棄物が輸入されており、コンテナ自体は米国、日本などからのものも含まれている。

 F19889月、イタリアの実業家が放射性廃棄物2,000トン余を投棄。契約はレバノンの搬入者の偽造書類で、イタリア政府は注意事項を指示するも遵守されなかった。付近の海水浴場は客が減り、軍の出動騒ぎもあった。

 G19889月、イタリアの化学会社の内容不明の廃棄物(含放射性)ドラム缶12,000個を積んだイタリアの貨物船ザノービア号が陸揚げできずに世界一周した(ジブチ、ベネズエラで拒否)。イタリア政府は、19885月末にジェノバ入港に同意、同年6月陸揚げした。

 H キアン・シー号事件 1986年、米国フィラデルフイアの請負業者が有害な一般廃棄物の焼却灰約14,000トンを積んだキアン・シー号がバハマに向かうが、政府に拒否され、カリブ海に向かい、ハイチで一部陸揚げし、化学肥料として散布したが、ハイチ政府がその有害性を理由に同船の出港を命じた。その後、キアン・シー号は、残りの灰の荷下ろし地を求めて、バハマ、バミューダ、ホンジュラス、ドミニカ共和国、ギニア、ピサウ、フィリピン、東欧などに向かい、途中、船の名前をぺリカン号と変えつつ1年半航海し、最後にはインド洋に海洋投棄したのではないかとの疑いがもたれている5

 続いて、近年わが国に関連して取り上げられた有害廃棄物の越境移動問題に関する新聞記事を紹介する。これらのケースは、バーゼル条約にわが国が批准し、この条約に対応する国内立法が制定された前または後の出来事でもあるが、有害廃棄物の越境処理と言う事態を示す氷山の一角であるともいわれる。わが国の有害廃棄物の越境移動や処理に対する業者や政府の態度がよく見て取れる。

 I 1998315日の朝日新聞によれば、「産廃、違法輸出の疑い」とのタイトルの下で、北朝鮮にアルミ残灰が計5万トン輸出されていたとの記事が掲載された。このアルミ残灰は、水と反応すると発熱し有害ガスが発生するものである。名古屋市にある第二次精練会社は、残灰を金属アルミの回収、セメントの原料に再利用するという口実の下で、無害化せずに輸出していた。この国に輸出しなければ日本での不法投棄が増えることになるからとし、輸出したことは緊急避難であると主張した。北朝鮮では、この残灰を使用する電気炉は稼動しておらず放置の可能性があるとも伝えている。また、同紙によれば、この会社の社長が廃棄物処理法違反の疑いで逮捕される方針であるが、この残灰は、フィリピンにも輸出されていたという。その後、この残灰が静岡県西部の田んぼに袋詰めのまま野ざらし状態で不法投棄されていたことも判明した。

 この北朝鮮向けの産廃の輸出は、中国の輸入規制で急増したことが背景となってようである。1995年には、わが国から中国へは、約32万トン余が輸出されていたが、中国側の輸入規制強化により、古タイヤや残灰の輸出先が北朝鮮に変更になったものである。

 J 1998426日の朝日新聞は、中国のおける「日本の廃電線、中国農村部で野焼き目撃」のタイトルで、ダイオキシン発生の恐れの高い廃電線の一部がマスクもせず手作業で燃やされていることを報道する。およそ、年間輸出量72,000トンの廃電線の半分以上が中国向けに「再生用原料」として輸出される。ポリ塩化ビニールやポリエチレンで被覆された廃材は低温で燃やせば、ダイオキシン汚染が発生することはわが国ではよく知られているところである。

 K 医療廃棄物の輸出事件 1999124日、朝日新聞は、マニラ支局からの情報として、フィリピンの税関当局と環境資源省が、日本から医療廃棄物など約2,700トンが違法に船で送られてきたとして、コンテナの中身を公開するとともに、日本政府に外交的な抗議をするとともに、刑事的に日本の業者を訴えると伝えた。また、1225日毎日新聞によれば、環境、厚生、通産の各省庁が輸入元の「ニッソー」に対して、特定有害廃棄物輸出入規制法に基づき初の回収命令を出した。しかし、同社が同命令に従わない可能性が強いので、国は行政代執行で廃棄物を回収し、船で日本に輸送し、処分され、2000110日廃棄物は東京港に陸揚げされた。その後、環境庁、厚生省並びに外務省は、輸出業者に適正処理を命じたが、業者がこれに応じないために、国は、国費でこれらの廃棄物を焼却したという事件である。

 この事件は、まさしく、「有害廃棄物の越境移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」に顕著に違反する醜悪なケースとなった(バーゼル条約については、⇒四章参照)。まさしく、これらの医療廃棄物は、「バーゼル条約附属書T 規制する廃棄物の分類、廃棄の経路、YI 病院、医療センター及び診療所における医療行為から生ずる医療廃棄物」に該当する。バーゼル条約の規制対象とされる有害廃棄物の越境移動による環境破壊への対処するわが国の条約実施体制の不備、消極的態度があまりにも示される事件である6

 1970年代に至り、わが国内における公害規制が厳しくなるにつれて、その隘路を東南アジアに求めたことは周知の事実である。多国籍企業の形態をとりながら、チープ・レーバーや資源確保を求め、さらには、ビジネスとして有害廃棄物のみならず公害を輸出し、諸国の環境を破壊し続けてきたのである7。これらの有害廃棄物の越境移動は、その延長上に今でも続いている由々しき出来事である。

 

 

三 有害廃棄物に対応する法システムの比較

 

 ここでは、有害廃棄物の環境リスクに対応するシステムを検討することにする。その具体的なシステムとして、OECD1992年決議、アメリカ合衆国のRCRA(資源保存再生法)とスーパーファンド法、EC環境法を比較し、有害廃棄物の定義、「環境上適切かつ効率的な方法」での処理、リサイクル目的の越境移動、「マニフェスト・システム」、有害性の程度に応じた管理のリストなどにポイントをおいて見てゆくことにする。

 

 1 OECDの回収目的の越境移動規制システム

 有害廃棄物の国境を越える移動は、1970年代から欧米諸国を中心にしばしば行われ、1980年代に入ると、先進国から開発途上国に廃棄物が放置されて環境汚染が起きるなどの問題が頻繁に発生した。無論今でも終焉していない。すなわち、OECDのデータによれば、1980年代後半には、OECD諸国では毎年約3億トンの有害廃棄物が発生し、そのうち2億7000万トンがアメリカ合衆国から、EUから2,000万トン、東欧から1,900万トンを越える量が排出されている。そして、そのうちの10%が越境移動されており、欧州では毎年220万トンが、北米ではアメリカ合衆国を中心として毎年6,000万トンから9,000万トンがその対象とされ、メキシコ、ブラジルそして台湾をはじめとする非OECD諸国に移動していたのである。そして、何らの事前の連絡や協議なしに有害廃棄物が国境を越えて移動し、かつ最終的な処分の責任者の所在も不明確であるという問題の存在が明らかとなった。

 「経済協力開発機構(Organization of Economic Cooperation and DevelopmentOECD)」は先進国だけをメンバーとする組織であるが、1974年「環境政策に関する宣言」を採択し、その後における環境政策の先進諸国間の調整を行うことになる。OECDでは、ようやく環境政策の一環として有害廃棄物問題の検討が開始され、1984OECD理事会は、各国が有害廃棄物の越境移動を規制するために、有害廃棄物の移動に関する適切、かつ時宜を得た情報を関係国に提供する義務を有するとの決定を採択し、この決定を実施するための「有害廃棄物の越境移動に関する原則」の適用を勧告した。その勧告に基づき、各国が人と環境を保護するような方法により、自国領域内の有害廃棄物を管理し、また、適切な処理施設の設置を推進すべきであるとの一般原則が定められた。これは、後のバーゼル条約の基本的骨格となるものである。この後、有害廃棄物の越境移動は、発展途上国と先進工業国間の南北問題としての文脈も持つようになる。しかし、この理事会の決定・勧告は強制力・拘束力を有するわけではない。

 1985年、有害廃棄物の越境移動に関する国際協力決議が採択され、OECDとして、従前よりもさらに適当な措置および法的拘束力のある国際協定を含む、有害廃棄物の越境移動の効果的な規制のための国際システムを発展させることが決定された。

1986年、OECD地域からの有害廃棄物の輸出に関して規制を強化する決定・勧告が採択される。すなわち、非OECD加盟国への有害廃棄物の輸出に関しては、当該国の同意および通過国への事前通告がないときには禁止されること、適切な廃棄物処理施設がない非OECD加盟国に対しては有害廃棄物の輸出が禁止されることなどという内容である。同時に、OECD地域外への有害廃棄物の輸出に関しては、輸出者は輸入国の当局に対し、少なくとも輸入国がOECD加盟国である場合と同様の情報を提供し、当該輸出国において法的に必要とされる、または禁止されている当該廃棄物の処理方法を通知しなければならないとされた。

1988年、理事会は有害廃棄物の定義を決定した。この決定によれば、「有害廃棄物」とは、本決定附属書に掲げる廃棄物の「コア・リスト」(Y」表とよばれる)および輸出国・輸入国いずれかにおいて有害廃棄物と考えられている、あるいは、法律上定義されているすべての廃棄物であるとされた。バーゼル条約の母体をなすものである。

1991年には、廃棄物の越境移動を最小化することを求めつつも、回収国的の廃棄物の移動は異なる規制レヴェルとなすべきことが決議される。バーゼル条約採択後の1992年、回収作業が行われる有害廃棄物の国境を越える移動の規制に関する決定が採択された。UNEPの採用する有害廃棄物の全面輸出禁止の原則とは異なり、有害廃棄物であってもリサイクル目的であれば越境移動も一定のルールの下で認めるべきであるというその後の指針となる基本的な考え方がここに定立されたのである。こうして、環境への悪影響が軽微と考えられるOECD加盟国間の再利用目的の有害廃棄物の輸出入についてはより簡略な手続が定められた。この決定では、有害廃棄物を有害性の程度に応じて、緑(Green List)、黄(Amber List)および赤(Red List)の3つのリストに分類され、この分類にしたがい、それぞれの有害廃棄物の国境を越える移動を規制することとした。

 OECD決定における黄および赤リストの手続をバーゼル条約のそれと比較した場合、OECDの決定は、@リサイクル目的以外の有害廃棄物の移動を何ら規定していないこと、A輸出入の許可に関する要件について定めがないこと、B不法取引の処罰規定がないこと、C決定に参加しない国との問の移動を禁止していないこと、D取引、代替的な処理などの義務の所在は関係者の契約によって決定されることとされており、国の関与が間接的な手続となっていることなどの相違点がある8

   

 2 RCRAとスーパーファンド法

1)1984年資源保護回復法(RCRA)

 廃棄物(waste)の処理のあり方は、国際環境問題の中核をなす。なかでも有害廃棄物(hazardous waste)は、水、土壌、大気を含む環境全体の汚染に導くものであり、特に対応が難しい代物である。米国においても、他国と同様、1970年代まで有害廃棄物が埋立地(landfill)などで処分されてきた。しかし、過去の処分が最悪のあり方であったとの反省の上で、米国は、現在、有害廃棄物の管理に関して、意欲的なプログラムを実施してきたといわれる。すなわち、連邦議会は、国民の健康と環境へ悪影響をもたらす要因を将来にわたってできるかぎり取り除くことを主たる目的として、1976年に「資源保護回復法(Resource Conservation and Recovery Act of 1976RCRA)」を制定した。本法には、その後数回にわたって修正が加えられ、1984年の最も大幅な修正法が「1984年有害固形廃棄物修正法(Hazardous and  Solid Waste Amendments of 1984 :HSWA)1984RCRA修正法)」である。

 RCRAは、有害廃棄物の発生者(generator)、輸送者(transporter)、ならびに、それらの有害廃棄物の処理、貯蔵及び処分施設(Treatment, Storage and Disposal FacilitiesTSD施設)の所有者及び資源保護回復法(RCRA)の所有者及び管理者に、有害廃棄物の取扱いおよび管理上一定の要件を課し、それにより有害廃棄物が発生してから最終処分されるまでの文字通り「揺りかごから墓場まで」を規制することを目的する。この目的の背景には、RCRAで謳われている基本的理念がある。すなわち、国家の政策として有害廃棄物は、可能なかぎり迅速に削減するか、あるいはなくすべきであること、埋立処分は最も望ましくない廃棄物処分方法であること、および廃棄物は現在および将来の国民の健康と環境への悪影響を最小限にとどめるよう取り扱われるべきであること、の3点である(サブタイトルA)。ただし、後述するスーパーファンド法とは異なり、RCRAの対象となるのは主として現在操業中のTSD施設の所有者や管理者といった廃棄物管理の現在の関係者である。

 RCRAは、AからJまでのサブタイトルに分かれているが、特に重要なのはサブタイトルCであり、これは全米の有害廃棄物の管理プログラムを規定している。このタイトルの基本的な枠組を構成するのが第3001条から第3020条である。その要点は、別表のとおりである。本法と並んで、1984RCRA修正法の重要な条項は、有害廃棄物の汚染除去責任を規定する条項と地下貯蔵タンクを規定する条項である。これらの法は、有害廃棄物の輸送、処理、貯蔵並びに処分やそのための施設に関するプログラム規定であるが、有害廃棄物のリサイクルの促進については実効性を持つに至っていないといわれる。

 RCRA法の内容をみるに、まず、有害廃棄物が輸出される場合は適用されない。これは、バーゼル条約に批准しないアメリカ合衆国が他国との関係で問題とされうる最大のポイントである。次に、RCRAは有害廃棄物の管理方法を定めたに過ぎない。過去の管理についての責任をとり、汚染発生の責任が問われるようになったのは、1984RCRA法によってである。しかし、後述するスーパーファンド法が自ら是正措置を行うのとは異なり、RCRAは「是正措置」を講ずるための固有の基金を有しない。したがって、RCRAは、過去の有害廃棄物の現在における汚染につき責任を有する者に対して措置を講ずることを命ずるだけである。ただ、その命令に従わない者に対して、市民は、身体及び財産に被害を被った者の損害賠償のみならず、切迫した重大な危険をもたらしてきた排出業者、運送業者、処分施設の所有者または操業者に、差止請求の権利を有するとされる9

 

  サブタイトルCの主要条項の要点

3001条 個々の有害廃棄物を特定する規制の公布義務をEPAに課している。

3002 有害廃棄物の発生者が遵守すべき要件を規定している(廃棄物を追跡・管理 できるように、統一されたマニフェスト(積荷目録) を使用することや廃棄物の適切な 取扱い義務が含まれる)

3003 有害廃棄物の輸送者にマニフェストラベル表示、およびTSD施設への有害 廃棄物の輸送に関する規制の遵守を要求している。

3004 有害廃棄物の処理・処分に関する条項で、最低限取り入れるべき技術や地下 水の監視、未処理の有害廃棄物の陸上処分の段階的禁止などを含む操業要件を遵守する ことをTSD施設に要求している。

3005条 TSD施設の操業許可に関する条項で、TSD施設の所有者および管理者に、 操業許可の取得を要求している。

3005条 既存のTSD施設が許可を取得するまでの操業を認めるという「(e)  暫定 許可状態」(interim status)について規定している(1984RCRA修正法では、EPA と州がRCRAの下での最終的な許可を発行するまでのスケジユールを規定している)

3006 RCRAのプログラムを実施する際の州の責任を規定している。

30073008  検査(inspection)および遵守命令、ならびに、違反者に対する行政訴 訟に関するEPAの権限を規定している。刑事罰についての規定もある。

 3009条 州法と連邦法の関係について規定しており、州法が連邦法より穏やかな規 制を設けた場合、それが有効とはならないことを定めている。

 

 2)スーパーファンド法

 スーパーファンド法とは、「包括的環境対処・補償・責任に関する1980年総合法」(Comprehensive Environmental Response and Liability ActCERCLA)と「スーパーファンド修正及び再授権法」(Superfund Amendments and ReauthorizationSARA)の二つをあわせた通称である。

 スーパーファンド法成立の契機になったのは、1978年に起こったラブ・キャナル事件である。この事件は、フッカー化学という企業が2万トン余の化学廃棄物を1942年から1952年までラブ・キャナルと呼ばれる運河に廃棄していたことに起因する。当時の法律によれば、それは合法的な行為であった。その後、その運河は埋め立てられ宅地にされたが、その30年後、そこに建てられた住宅や小学校に悪臭や有毒ガスが発生し、PCBDDTなどの有毒物質による地下水や高濃度のダイオキシンによる土壌汚染の問題が表面化し、地域住民の健康調査でも流産や死産の発生が高いことが確認され、社会問題となったのである。最終的には、住民は疎開し、建物は撤去されたが、被害住民からの損害賠償請求が現在も続けられている。この事件を契機としてアメリカ環境保護庁(EPA)が全米で調査を行った結果、環境汚染を及ぼす恐れのある廃棄物処分地が3万から5万ヶ所もあることが確認された。

 この事件を契機として、米国環境保護庁は、スーパーファンド法を成立させ、土質汚染や地下水汚染に対して浄化プログラムための強力な行政権を持つこととなった。1976年制定の「産業廃棄物規制法(RCRA)」では過去に投棄された廃棄物による汚染には無力であったことから、ラブ・キャナル事件の翌年1979年に、「包括的環境対策賠償責責任法」を制定し、過去の汚染の修復をまかなうための基金を設けることとしたのである。この基金をスーパーファンドと呼び、この法律も同様にして「スーパーファンド法」と呼ばれる。

 1980年にその浄化費用に充てるためにスーパーファンドとして16億ドルの信託基金が設立されたが、当初の信託基金だけでは間に合わず、1986年に5年の時限立法としてSARAを制定し、基金の額を85億ドルに増加した。1991年にはスーパーファンド法がさらに延長されている。スーパーファンド法は、有害物質によって汚染されている施設(サイト)を発見した場合、汚染者負担の原則に基づき、汚染場所の浄化費用を有害物質に関与した全てのPRP(Potential Responsible Parties : 潜在的責任当事者)に負担させ、さらにPRPが特定できない場合や特定できても浄化費用を負担する賠償能力がない場合に、この基金を使って汚染サイトの浄化作業や改善措置を進めることにしたのである。この基金の運営には、1970年に設置されたEPAがあたり、浄化作業に着手し、その費用をPRPに請求できる権限を持っている。

 アメリカ合衆国のほとんどの環境法が将来における汚染の進行防止を目的としているのに対して、スーパーファンド法は、過去になされた汚染の浄化を義務づけることを目的とする。本法は、PRPの範囲をかなり広範囲に及ぼす。これは本法が因果関係に基づいて汚染者負担の法的責任を追及するためではなく、浄化費用の負担者を決めることを目的とすることに起因する。PRPは、以下の4種類の者、すなわち、@現在の施設の所有者、管理者、A有害物質が処分された当時の施設の所有者、管理者、B有害物質発生者、C有害物質を廃棄場へ運んだ輸送業者が対象とする。つまり、PRPは、直接有害物質を廃棄、処理した者に限らず、その後の施設の所有者や運搬関係者にまでその範囲が及ぶことになる。既に汚染されている土地や施設を取得したことにより、「所有者」または「管理者」とみなされ、加害者の過失の有無を問わず、責任を追求される。単にPRPに該当するだけで自動的に浄化責任者にされてしまうのである。

 1986年に制定されたSARAは、「善意の購入者の抗弁」の条項を追加して、不動産の取得者や銀行などの金融機関が環境汚染賠償リスクに対して善意の購入者又は所有者の抗弁を主張できることを明確にした。この抗弁方法の最良の手段が環境監査であり、単に汚染の事実を知らなかったというだけでは責任を回避できないのである。

 アメリカでは、土地取得や企業のM&Aに際し、事前監査としての環境監査が不可欠となってきている。この場合、事前に環境関連の法律に違反していないかどうかの監査よりも、ビジネスリスク、特に賠償責任リスクの把握に重点が置かれている。スーパーファンド法の下での環境監査は、防御的で対症療法的な環境監査であり、法的な責任を負わされる事態を避けることを目的としたリスク対応の手段として環境監査である。この企業戦略としての環境に対応する監査によって、環境への影響をモニターし制御するシステムが存在し、順調に機能していると保証することで経営者は安心できるのである。

 スーパーファンド法の下での環境監査は、現代における企業活動の環境に与える深刻かつ大規模な影響を最小限に抑えるために、人類が地球全体の環境を考えて行動し始めた「持続可能な発展」向けた経済と環境との調和を目指す挑戦の一例であろう。

 しかし、このレベルの環境監査だけでは環境的公正を実現することはまだまだ困難である。市民の視点も入っていない10。とはいえ、企業が取り扱っている有害化学物質に関する情報の報告義務を怠った場合、地域住民には、その情報を知る権利が保障されているとともに、企業またはEPAにその義務を履行させるための訴訟を提起することが認められる。こうして、市民に原告適格が肯定され、市民訴訟が可能である。

 

 3 EU環境法

  1)EU環境法

 EU加盟国の環境法制は、ECの環境法と加盟国の環境法の二重構造をなしている。ここでは、EUの環境法について述べるにとどめる11

1957年に設立された欧州共同体(EC)の設立条約であるローマ条約には、環境の保全及び法制度の発展に関する必要性は言及されていなかった。EU環境法の基本法は、1987年に制定された。その間、二次的な環境法制の採択が行われてきた。たとえば、1970年代の初頭には、最初の環境行動計画(Environmental Action Program)が承認されている。この行動計画は、いくつかの法律の制定の一般的なガイドラインとされてきた。環境問題を取り扱う最初の法律は1975年に制定された。この法律は、土壌から発生する海洋汚染の問題を取り扱っている。これは、EC条約235(308)に基づいたものであるが、これにより、欧州共同体は、EC条約により特定の権限が付与されていない事項については、全員一致による決定を行うことが可能となったわけである。

1975年から1987年の間には、第2および第3の環境行動計画が承認された。この期間、200を超す法的措置が採択されている。当初、これらの措置は、水質および廃棄物問題に集中していた。

  その後、1986年の単一の欧州市場の確立を目指す単一欧州議定書の採択(施行19877月)によりEC条約が修正され、1985年以降この条約の修正過程で環境保護に関する重要な規定が挿入されることとなる。すなわち、EC条約の中に、「環境」と題する個別の条文が挿入されることなった。具体的には、欧州共同体の政策の中に、以下の4つの目標を盛り込んだ2つの条文(130r条、130s条および130t)が挿入された。4つの目標とは、@環境の良質の保全、保護および改善、A人間の健康の保護、B資源の慎重かつ合理的な利用、C国際的レベルでの地域的または世界的環境問題を処理する手段の促進である。さらに、新たな条文は、高レベルの環境保護が重要な目的であるとし、予防原則(Precautionary  Principle)、汚染者負担の原則(The Polluter Pays Principle)の重要な原則も導入した。

  しかしながら、これらの目標や原則を二次的法制に変えようとする提案の実現は、「全員一致」の意思決定スシテムを必要とする欧州共同体において、単一欧州議定書が発効した1987年には加盟国が6カ国から12カ国の組織に拡大した結果、新規加盟の南欧諸国によるこれらの提案への消極的な態度によりますます困難となっていた。これら国々は、経済的発展が遅れていたので、環境の保護施策が自国の経済の成長を妨げることになると考えたからである。しかし、環境法の調和なくしては、経済統合の結果としての域内の自由貿易はあり得ないのである。

 EC条約は、1991年に、欧州連合条約(マーストリヒト条約)により、再度修正され、爾後、加盟国の過半数により、一般行動計画(General Action Programs)が承認されることとなった。1997年には、アムステルダム条約が採択され、1999年に発効した。この条約は、とりわけ、共同決定手続(Co-decision Procedure)を、環境法の採択に使用することを要求した。こうして、共同決定手続は、意思決定の過程において、閣僚理事会(Council of Ministers)と欧州議会(European Parliament)を同一レヴェルの立法者に位置づけることとなった。従来、各加盟国の閣僚で構成された唯一の立法機関である閣僚理事会は、環境保護についての各加盟国の異なる対応姿勢の結果、欧州の環境法制の発展と採択を阻害してきたのである。

 アムステルダム条約は、直接選挙で選ばれれた欧州議会がより「環境に配慮する(green-minded)」組織であり、よりクリーンでかつ良好に保護される環境へと人々の関心を導く、より直接的な道であると考え、欧州議会を、多くのEU環境法を生み出す権限をもつ十分な意思決定機関へと変貌させた。さらに、2000年末に締結されたニ一ス条約は、アムステルダム条約を改定し、単純多数決で採択できる範囲を拡大した。90年代の終わりの時点で、環境問題に関連する500以上の法的措置が承認されている。これらの法的措置は、大気汚染(気候変動、空気の質)、騒音、廃棄物(その輸送と輸出)、水質(飲料水、地下水、河川への排出)、生物・自然の保護(生息環境、危機に瀕している生物の保護)、特定物質関連(燃料の質、化学物質、製品ラベル)など幅広い問題を包含していたのである。

 

 )EU環境法の基本原則

 EUの環境保護に関する主たる目的は、1987年以降EC条約に規定され、EU環境法の基本法を構成するものである。EC条第2条は、欧州共同体のすべての主要原則を謳っているが、環境の保護についての原則も含んでいる。すなわち、

2条[目的]

  共同体全体を通じて、経済活動の調和的、均衡的及び持続可能な発展、高 水準の雇用及び社会的保護、男女間の平等、持続可能でかつインフレーショ ンを伴わない成長、経済達成の高度の競争性及び集中化、生活水準及び生活 の質の向上、環境の質の高水準の保護及び改善、並びに構成国間の経済的及 び社会的な緊密化と連帯を促進することをその使命とする。

第6条[環境保護] 環境保護の要請は、第3条に定める共同体の政策及び活 動の定義と実施の中に、特に持続可能な発展の促進のために取り入れられな ければならない。

174条[環境政策の目的]

1 共同体の政策は、次の目的の追求に寄与する。

環境の質を維持し、保護し、及び改善すること。

人間の健康を保護すること

天然資源の慎重かつ合理的な利用

地域的又は世界的な環境問題を扱う国際的段階での措置を促進すること。

2 共同体の環境政策は、共同体の各地域における事情の多様性を考慮しな がら高度の保護水準を目指す。それは、事前予防の原則、並びに予防措置が 講じられるべきこと、環境損害は先ず原因において是正されるべきこと、及 び汚染者が負担を負うべきことという原則に基礎を置く。

  これに関連して、環境保護の要請に応えるための調整措置は、必要がある ときは、構成国が、共同体の監督に従うことを条件として、非経済的な環境 上の理由のために暫定的措置を執ることを許可する保障条項を含む。

3 共同体は、その環境政策を準備するに当たって、次のことを考慮に入れ る。

  − 利用可能な科学的及び技術的情報

  − 共同体の多様な地域における環境的条件

  − 行動をとった場合ととらない場合の潜在的な利益及び負担

  − 全体としての共同体の経済的及び社会的発展並びに共同体の諸地域の   均衡のとれた発展

 以下では、上に引用した、EC条第174条において、環境政策が4つの特定の原則に基づかなければならないとしているので、それらの原則を検討する。

 @予防原則 環境政策に最も重要なこの原則は、十分な科学的根拠がない場合であっても、特定の状況、製品および物質が環境および人間の健康に重大な損害を与えているという兆候がある場合には、立法措置をとることが適切であるとするものである。例えば、プラステックを軟化させる化学物質であるPhthalatesが包括的なリスク評価がなされていない状況で、使用禁止の措置を肯定するものである12。A事前防止措置原則 この原則は、発生した被害を事後に除去するよりも、汚染の発生を未然に防止する手段をあらかじめとっておく方が、通常は費用がかからないという考え方に基づくものである。この原則と予防原則と不可分に結びついているが、EU裁判所は、これらの原則は、ほとんど交互に使用されるべきとの判断を示し、狂牛病への取組みにあたっても、「事前防止措置の原則」に基づき、とるべき対策は、決定的な証拠なくしても可能であると判断したといわれる。B汚染者負担原則 汚染者が被害の費用を支払うべきとの原則は、今や自明となり、立法において採用されてきた。すなわち、特定の廃棄物処理を取り扱う法律では、製品製造業者に(被害の)コストの全部または大部分の負担を負わせる根拠をこの原則においている。しかし、この原則には、批判がないわけではない。汚染(発生した被害)の除去のコスト負担につき汚染源である製品の使用者がどの程度寄与すべきかにつき明確でないというのである。拡散型の汚染についても、汚染者の限定につとめ、この原則を徹底すべきであろう。C発生源での対応原則 欧州裁判所により採用された原則である。すなわち、ある地域当局が他地域からの廃棄物の輸入を禁止したケースにおいて、廃棄物は、それが発生した場所にできるだけ近い所で処理されるべきであるというものである。

 

 3)有害害廃棄物の越境運送に関するEC指令

 廃棄物問題が世界的に注目をあびている中で、廃棄物処理およびその一環としてのリサイクルの問題がある。廃棄物に関するECの基本方針は、まず廃棄物そのものの発生を減らし、それでも出てくる廃棄物は再利用またはリサイクルし、それが不可能なものは最適処分を行う、そして廃棄物による汚染には浄化措置を実施するというもので、いわばパイプの人口から規制しようという思想である。このほか、有害廃棄物の輸送についての規制も行ってきた。そこで、ECレベルでなされてきた廃棄物関連の各種指令の提案、改正案について素描する。

(1)廃棄物指令(1975年制定、1991年改正) 廃棄物に関する枠組指令である(一部の産業廃棄物や放射性廃棄物は対象とない)本指令は、廃棄物処理によって健康や環境に悪影響を与えぬよう必要な手段をとることを求め、そのために、@廃棄物に責任を負う当局の指定、A当局による廃棄物処理(回収、輸送を含む)計画の立案、B廃棄物取扱い施設や企業の操業の許可を定めた。これに加えて、加盟国はリサイクルの推進を要請され、また、リサイクル促進のためのいかなる法案もEC委員会への報告が義務づけられた。

 この指令は1991318日に改正された。改正の主たる内容は、「廃棄物(waste)」の定義の明確化と廃棄物のリサイクルと再利用の一層の奨励、および許可を受けるための要件の変更である。

 (2)有害・危険廃棄物指令(1978年制定、1991年改正)は、有害・危険廃棄物(放射性廃棄物等特別なものは除く)を貯蔵、処理、処分する企業に当局による許可を受けることを義務付ける。各加盟国は本指令により、有害・危険廃棄物が他の廃棄物と区分して回収、輸送、保管、処分し、その梱包には当該廃棄物の特性、組成、重量を明示したラベルが貼付するよう監督する義務を負う。

 1988年に本指令の改正案がEC委員会により提案され、19911212日に採択された。それによれば、「有害・危険廃棄物(toxic and dangerous waste)」を「有害廃棄物(hazardous waste)」という、より包括的な表現に変えるとともに、定義を明確化することにより各国での解釈の相違の余地をなくし、廃棄物の発生の抑制とリサイクルすることに一層の重点をおく。

 (3)有害廃棄物の越境輸送に関する指令(1984)は、自国での有害廃棄物処理設備の不足が原因で、あるいは安い処理施設を求めて有害廃棄物が越境移動するのを監視、規制することを目的とする。

 (4)危険物質を含有するバッテリーに関する指令(1991318日に採択)は、ECでは水銀、カドミウムなど危険物質を含有するバッテリーと蓄電池を対象するリサイクル法案の一つである。この指令は、加盟国に対し当該バッテリーにつき、別途の処分の必要性、リサイクルの可能性、家庭廃棄物との同時処分の可否の識別表示などを義務づけるものである。

 (5)廃棄物に関する民事責任指令案 ECの環境法のうちで最も論議のある問題に関するものである。198910月に原案が提案され、19916月に修正案が出された。有害廃棄物の越境移動に関する指令の中で、19889月末までに有害廃棄物の発生者の民事責任規定とそれをカバーする保険に関する規定をEC委員会の民事責任指令案として提案したものである。欧州議会が修正提案後、EC委員会でも相当程度その内容を取り入れて再提案したものである。その内容の主たるポイントは、汚染者負担の原則にしたがい発生者に民事上の責任原理としての無過失責任、連帯責任を負わせたこと、および、その責任を強制保険を含む支払手段の確保の義務づけでカバーしようとしたことである13

 

 4)「環境と貿易」とマラシュケ合意

 1)貿易の自由化と環境の保護 国際社会が現在抱えているイシューは,環境保護を理由とした貿易措置が一方的に課されるというユニラテラリズムが横行する危険と、環境保護を配慮した貿易の自由化が持続可能な経済成長を遂げる必要性であるといわれている。現在、WTOが抱えている難問題である。要するに、環境NGOが、Greeting the GATT(ガットを緑に)”というスローガンで示したように、貿易自由化と環境保全が両立可能であるかということである。この貿易と環境の問題に対する考え方は二分される。第1の立場は、環境最重視の立場で、WTO体制下で進行する貿易の自由化により世界的レベルでの環境破壊が加速されることを懸念する立場である。第2の立場は、自由貿易擁護派であり、環境保護を目的とした各国の環境基準や環境規制が実際には輸入制限的な措置として機能し、結果的には国内の保護主義的勢力の「道具」になるのではないかという懸念する人々である。環境負荷を可能な限り抑制する形で産業政策や通商政策を各国が策定し、環境保全の措置が持ちうる貿易歪曲効果をできるだけ少なくすることが求められているのである。

 しかし、現実の国際貿易においては発展段階の異なるさまざまな国民経済が繁栄と経済的安定を求めて互いに競争しており、このことが「貿易と環境」をめぐる国際的交渉を一層複雑にしている。また、現実には、先進国、またある国が身勝手に行動したりして、2002年ヨハネスブルグで開かれた「持続可能な開発に関する世界首脳会議」では、開発途上国から、「WTOがサミットを乗っ取った」という批判が繰り返され、先進国主導のWTOは、開発途上国や環境保護派から敵視されつつあると報ぜられている14

2)GATT/WTOにおける環境への取り組み 貿易と環境の問題が初めてGATTで議論されたのは1971年であり、そこで「環境措置と国際貿易に関する作業グループ」が設置されたが休眠状態にあった。199011月、「欧州自由貿易連合(EFTA)」諸国は、19926月にブラジルで開催される国連環境開発会議(UNCED)に向けてGATTとしても貿易政策と環境政策の関連について、このグループに検討作業に入るよう提案した。これを受けて各国間で非公式の意見交換が行われた結果、199110月のGATT理事会で同グループによる検討作業の開始が正式に決定した。作業グループは、その後1992年と1993年の締約国団会議に報告書を提出し、その審議を終了した。その間GATT事務局にも貿易と環境の問題を専門的に担当するスタッフが置かれ、こうして、19944月ウルグァイ・ラウンドを締めくくるマラシュケ閣僚会議においてWTOのなかに「貿易と環境委員会(CTE)」が設置されることが正式に決定され、同委員会はシンガポール閣僚会議に報告書を提出すべく精力的に活動を行ってきた。

3)「ツナ・パネル」の裁定と「北米自由貿易協定」 米国内では格別の関心が貿易と環境の問題に向けられていた。その理由の一つは、19918月に出たGATTのいわゆる「ツナ・パネル」の裁定である。今一つの背景は、「北米自由貿易協定」(NAFTA)であった15NAFTA交渉は、米国民に貿易と環境の問題が不可分にリンクしており、環境に害を与えることなく経済成長の達成と貿易障壁の軽減を保証することがきわめて困難であることを印象づけた。また「ツナ・パネル」の方はイルカを保護するための措置であったために、米国の輸入規制がGATT違反とされたことに米国の世論は大いに反発し、GATTで貿易と環境の問題が同一に議論がされることに対する疑念がわき起こったといわれる。この二つの出来事は単に米国内にとどまらず、世界的にも貿易と環境の関連の重要性を認識させる契機となり、各国はGATTOECDの場での議論に本腰を入れるようになるのである。

 4GATT条文と環境 WTO協定の附属書TAにはウルグアイ・ラウンドにおける修正を加えたGATTが「1994GATT」として含まれているが、その中の環境に関連する条文といえば、GATT20条(b)項と(g)項である。第20条は「一般的例外」を定めたものであるが、次のような規定になっている。

    この協定(GATT)の規定は、締約国が次のいずれかの措置を採用すること 又は実施することを妨げるものと解してはならない。(中略) (b)人、動物又 は植物の生命または健康の保護のために必要な措置、(中略) (g)有限天然資 源の保存に関する措置。ただし、この措置が国内の生産又は消費に対する制 限と関連して実施される場合に限る。

 この適用除外には、一定の条件が付けられている。すなわち、GATTの無差別主義を踏襲する、それらの措置が同様の条件のもとにある国々の間で不当に差別的な待遇を与える手段となってはならないということと、いわば自由貿易主義の原則を再確認する、例外対象となる措置を「国際貿易の偽装された制限となるような方法で」適用してはならないということである。

GATT(一般協定)本体とは別に、東京ラウンド(19731979)の際に合意された非関税障壁に関する協定の内、いわゆる「補助金・相殺措置に関する協定」(補助金コード)と「技術的貿易障壁に関する協定」(スタンダード・コード)が環境について定めている。補助金コード第111項は、輸出補助金以外の補助金について過密化問題および環境問題に対処する目的のために各国が補助金を交付することを容認している。これにより環境対策のために交付される補助金については、基本的にはGATT違反は問われないこととなる。次に、スタンダード・コードは、環境措置も含めて技術規格や基準を各国政府が決定する際にそれらが「国際貿易に不必要な障害」をもたらすことがないように求めているが、人の健康の保護や環境の保全などについては、例外を認めている。

5WTOと「多国間環境条約(MEA)」との関係 19944月のマラケシュケ閣僚会議で採択された「閣僚決定事項」には、「貿易と環境に関する委員会」への付託事項ならびに10の検討課題が列挙されている。その中で最も議論が集中したのが、WTO協定とMEAとの関係である。既存のMEAの中には貿易措置を含むものとして、有害廃棄物の国境を越える移動およびその処分の規制に関するバーゼル条約がある。これらのMEAの中には非締約国に対し貿易措置を制裁手段としてとることを認める規定を有するものもあり、貿易措置の対象となった当該MEAの非締約国がWTOの協定加盟国である場合には、この措置が加盟国間での差別的待遇を禁止しているWTO協定に違反することにならないかという間題が存在する。

 WTOMEAとの関係については、一定の条件が整っていればMEAの非締約国に対し貿易制限的措置をとることを容認しようという方向で議論は収敏しつつあるといわれる。しかし、「一定の条件」をどうするかについては、議論は分かれている。何らかのガイドラインを作成すべしとするグループと20条の改正で対応すべしとするグループ=現状維持でも何とかなるとするグループである。WTOMEAとの整合性確保を図るアプローチとしては、「ガイドライン」や「20条改正」などあらかじめ、MEAWTOに抵触しないための条件を規定しておこうとする「事前的アプロ一チ」とGATT25条のウェーバー条項を援用してケース・バイ・ケースで対応しようとする「事後的アプローチ」の二つがある。MEAの法的安定性やWTOにとっては、「環境」という大義名分の下に抜け穴ができてしまうという危険性などが指摘されており、考慮のポイントであると指摘されている16

 

 

 四 バーゼル条約

 

1)UNEPによる有害廃棄物への取り組みとバーゼル条約への歩み

 1981年、ウルグァイのモンテビデオで開催された環境法に関する上級政府専門家会合において、有害廃棄物の輸送、取り扱い、処分の問題がが陸上起因の海洋汚染及び成層圏オゾン層の保護と並び最優先課題とされた。1982年、UNEPは、管理理事会で、有害廃棄物の環境上適正な輸送、管理、処分に関する指針又は原則を発展させるための専門家作業グループの開催を決定する。1985年、OECDで「有害廃棄物管理のためのガイドライン」及び原則(カイロ・ガイドライン)で問題となったポイントとは、@有害廃棄物の定義、A発展途上国のアセスメント能力、B環境上好ましい投棄に関する責任、C非合法な移動、である。

 1986年には、UNEPの手によって、「有害廃棄物の環境上適正な処理のためのカイロ・ガイドラインおよび原則」がとりまとめられた。これは、各国政府が有害廃棄物の環境上適正な管理にかかる政策を発展させることに資するため策定されたものである。その内容は、@廃棄物の発生量を最少限にとどめるべきこと、A廃棄物発生削減技術の開発に必要な措置をとるべきこと、B廃棄物処理全般の政策指針を示すこと、C有害廃棄物の国境を越える移動については、事前通告・同意の手続をとるべきであること、である。この「ガイドラインおよび原則」は法的な拘束力はないものの、バーゼル条約策定以前の有害廃棄物の移動に関する国際的な合意として重要である。

 検討の場は、国連環境計画(UNEP)へと移り、1987年、UNEPOECDが先に決定した「原則」を含む「カイロガイドライン」を採択する。この直後の1988年、南北問題としての性格を決定的にする二つの事件、ココ事件とキアン・シー事件が露見した。この年には、スイスとハンガリーの共同提案に基づき、UNEP管理理事会は、UNEPの有害廃棄物越境移動管理の条約作成のためのワーキング・グループを設置し、同グループは作業を開始した。1989322日には、スイスのバーゼルにおいて開催されたバーゼル条約(正式には「有害廃棄物の国境を越える移動およびその処分の規制に関するバーゼル条約(Convention on the Control of Transboundary Movements of Hazardous Wastes and Their Disposal)」)採択のための外交会議において同条約が採択された(199255日発効)

 折しも工業先進国からの発展途上国への有害廃棄物の越境移動が現実に暴露されたのである。その結果、「アフリカ統一機構(OAU)」の加盟国がアフリカにおける廃棄物の処分を非難するとともに(OAU決議)、開発途上国は、有害廃棄物のすべての越境移動の禁止を主張した(越境移動禁止論)。また、1991年には、アフリカへの有害廃棄物の輸入を禁止する「バマコ条約(Bamako Convention on the Ban of the Import into Afria and the Control of Transboundary Movement and Management of Hazardous Wastes within Afria)」も採択された。これに対して、工業先進国は、廃棄物であっても経済的価値のある、リサイクル可能な物の取引と越境移動についてあまり制限を設けないことを主張した(越境移動規制論)。こうして、途上国と先進国の間の主張の溝は深く、採択された本条約に対する両サイドの不満も多く、本条約への署名は進捗しなかったのである。条約の採択後3年余を経た19925月に至り、ようやく条約発効に必要な20ヵ国の批准を得た。そうして、19977月段階では、「有害廃棄物の越境移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」に112カ国プラス1国際機関(EC)が、2002619日現在150カ国及びヨーロッパ評議会が批准しており。わが国は、1993917日加入したが、アメリカ合衆国は未だ批准していない1718

 

2)バーゼル条約の主たる規定の内容

(1)条約の対象とされる廃棄物と適用範囲

 バーゼル条約は、「有害廃棄物」と「他の廃棄物」として、その規制の対象なる廃棄物を、以下の3つに大別する。

 @まず、廃棄の経路、成分の2つの要因で規制される廃棄物に分類される廃棄物で、かつ、有害特性(すなわち、爆発性、引火性、可燃性、毒性、腐食性など14の有害・危険性特性)を有する(付属書V)ものである。ここで、廃棄の経路、成分による有害廃棄物(附属書T)は45に分類され、そのうちの18については、廃棄経路により分類される(Y1からY18)。例えば、病院などの医療行為などから生ずる医療廃棄物(Y1)、医薬品の製造などから生ずる廃棄物(Y2)、有機溶剤の製造などから生ずる廃棄物(Y6)、PCBなどを含む又はPCBにより汚染された廃棄物質及び廃棄物品(Y10)などである。他の27の廃棄物は、含有成分による分類された有害物品である(Y19からY45)。たとえば、六価クロム化合物(Y21)、銅化合物(Y22)、亜鉛化合物(Y23)、砒素、砒素化合物(Y24)、カドミウム、カドミウム化合物(Y26)、水銀、水銀化合物(Y29)、鉛、鉛化合物(Y31)などである。

 Aそれ以外の廃棄物で締約国がその国内で有害とあると定義し、また、認める廃棄物(第11項)

 B「他の廃棄物」として、家庭から収集されるゴミ(Y46)と家庭の廃棄物の焼却から生ずる残滓(Y47 (附属書U)である。

 ただし、放射性廃棄物は、別の国際的な規制(「放射性物質安全輸送規則及び放射性廃棄物の国境を越える移動に関するIAEA行動綱領」)の対象とされており、また、船舶の通常の運行から生ずる廃棄物であって他の条約「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年議定書(マルポール条約)」が適用されるものは、本条約の適用範囲から除外される(第134項)。

 次に、何ももって「廃棄物」と定義するかについては問題がある。すなわち、リサイクル可能な物質を条約の規制対象とすることの是非については、アフリカ諸国をはじめとする開発途上国と先進国の間で、OECD諸国(附属書Zの諸国)から非OECD諸国(開発途上国)への輸出を禁止する1995年改正に関連して議論があったところである。最終処分が行われるものだけを「廃棄物」とし、リサイクルされうるものを「廃棄物」の定義から除外すると、リサイクルに名を借りて最終処分目的の輸出が行われる恐れがあるので、リサイクルが行われるものについても条約の対象とすることが必要とされたのである。

 本条約によれば、「廃棄物」とは、「処分され、処分が意図され又は国内法に規定により処分が義務付けられている物質又は物体である」(第2条1項)。そして、条約は、「廃棄物」に決定基準となる「処分」概念を附属書W表に掲げる作業であるとした。附属書Wによれば、A表は、資源回収、再生利用、直接再利用又は代替的利用の可能性に結びつかない、リサイクル不可能な15の処分作業リスト(例えば、地上・地中廃棄、海洋以外の水中投棄など)D1からD15)と、B表は、処分される物質または物体であり(処分予定を含む)、リサイクル可能な13の処分作業リスト(例えば、資源回収、回収利用、再生利用など)(R1からR13)である。この改正は未発効であるが、1998年には条約で禁止される物質と禁止されない物質を区別するAB2種類のリストが、それぞれ附属書[、\として採択された19

       

表2 バーゼル条約付属書T:規制する廃棄物の分類

 廃棄の経路

 Y1   病院、医療センター及び診療所における医療行為から生ずる医療廃棄物      

 Y2   医薬品の製造及び調剤から生ずる廃棄物

 Y3   廃医薬品

 Y4   駆除剤及び植物用薬剤の製造、調合及び使用から生ずる廃棄物

 Y5   木材保存用薬剤の製造、調合及び使用から生ずる廃棄物

 Y6   有機溶剤の製造、調合及び使用から生ずる廃棄物

 Y7   熱処理及ぴ焼戻し作業から生ずるシアン化合物を含む廃棄物

 Y8   当初に意図した使用に適さない廃鉱油

 Y9   油と水または炭化水素と水の混合物又は乳濁物である廃棄物

 Y10  ポリ塩化ビフェニール(PCB)、ポリ塩化テルフェニール(PCT)もしくはポリ臭化   ビェニール(PBB)を含みまたはこれにより汚染された廃棄物質及び廃棄物品

 Y11  精製、蒸留及ぴあらゆる熱分解処理から生ずるタール状の残滓

 Y12  インキ、染料、顔料、塗料、ラッカー及びワニスの製造、調合及び使用から生ずる     廃棄物

 Y13  樹脂、ラテックス、可塑剤及ぴ接着剤の製造、調合及び使用から生ずる廃棄物

 Y14  研究開発又は教育上の活動から生ずる同定されていない又は新規の廃化学物質であ     って、人又は環境に及ぽす影響が未知のもの

 Y15  この条約以外の法的な規制の対象とされていない爆発性の廃棄物

 Y16  写真用化学薬品及ぴ現像剤の製造、調合及び使用から生ずる廃棄物

 Y17  金属及びプラスチックの表面処理から生ずる廃棄物

 Y18  産業廃棄物の処分作業から生ずる残滓

 

成分

 Y19  金属カルボニル

 Y20  ベリリウム、ベリリウム化合物

 Y21  六価クロム化合物

 Y22  銅化合物

 Y23  亜鉛化合物

 Y24  砒素、砒素化合物

 Y25  セレン、セレン化合物

 Y26  カドミウム、カドミウム化合物

 Y27  アンチモン、アンチモン化合物

 Y28  テルル、テルル化合物

 Y29  水銀、水銀化合物

 Y30  タリウム、タリウム化合物

 Y31  鉛、鉛化合物

 Y32  ふっ化カルシウムを除く無機ふっ素化合物

 Y33  無機シアン化合物

 Y34  酸性溶液又は固体状の酸

 Y35  塩基性溶液又は固体状の塩基

 Y36  石綿(粉じん又は繊維状のもの)

 Y37  有機リン化合物

 Y38  有機シアン化合物

 Y39  フェノール、フェノール化合物

 Y40  エ一テル

 Y41  ハロゲン化された有機溶剤

 Y42  ハロゲン化された溶剤を除く有機溶剤

 Y43  ポリ塩化ジベンゾフラン類

 Y44  ポリ塩化ジベンゾーパラージオキシン類

 Y45  この付属書に掲げる物質以外の有機ハロゲン化合物

 

表3 バーゼル条約付属書U 特別の考慮を必要とする廃棄物の分類

 Y46 家庭から収集される

 Y47 家庭の廃棄物の焼却から生ずる残滓

 

表4 バーゼル条約付属書V 有害特性リスト

 国連番号 コード

 1     H1      爆発性

 3     H3      引火性の液体

 41    H4.1    可燃性の固体

 42    H4.2    自然発火しやすい物質又は廃棄物

 43    H4.3    水と作用して引火性のガスを発生する物質又は廃棄物

 51    H5.1    酸化性

 52    H5.2    有機過酸化物

 61    H6.1    毒性(急性)

 62    H6.2    病毒をうつしやすい物質

 8     H8      腐食性

 9     H10     空気又は水と作用することによる毒性ガスの発生

 9     H11     毒性(遅発性又は慢性)

 9     H12     生態毒性

 9     H13     処分の後、何らかの方法によりこの表に掲げる特性を有する他の物                   (例えぱ、浸出液)を生成することが可能の物

 

 では、バーゼル条約が対象とする有害廃棄物の「越境移動」とはいかなる事態を意味するものであるか。条約は、「国境を越える移動の対象となるもの」をその適用対象とする。ここで、「国境を越える移動」とは、「その移動に少なくとも二つ以上の国が関係する場合において、一の国の管轄の下にある地域から、他の国の管轄の下にある地域へ若しくは他の国の管轄の下にある地域と通過して、又はいずれの国の管轄の下にない地域へ若しくはいずれの国の管轄の下にもない地域を通過して、移動することをいう」(第23項)。

(2)有害廃棄物の越境移動と処分の規制

 本条約は、その前文において、「この条約の締約国は、有害廃棄物及び他の廃棄物並びにこれらの廃棄物の国境を越える移動によって引き起こされる人の健康及び環境に対する損害の危険を認識し」とのべ、その第4条において、有害廃棄物の管理に関する基本目的を設定し、その達成方法を定め、それが締約国の一般的な義務であるとする20

 有害廃棄物の輸入を禁止することが、国家の主権的権利であると定め。この権利を行使する締約国は、事務局を通じて、その旨を他の締約国に通報する(第41項(a)、第132(c))。また、条約は、締約国と非締約国間の有害廃棄物の取引を禁止する(第45項)。ただし、単なる通過することは禁止していない。締約国は、締約国又は非締約国との間で有害廃棄物又は他の廃棄物の国境を超える移動に関する二国間の、多国間の、又は地域的協定又は取決めを締結することができる。無論そのような協定や取決めが環境上適正な管理という条件の合致することが条件となっており、また、協定や取決めも特に開発途上国の利益を考慮して、本条約の環境上適正な管理という条件以上の内容を規定をするものとされる(第11条)21

 本条約は、有害廃棄物が南極(南緯60度以南の地域)における処分のために輸出されることを絶対的に禁止する(第4条6項)。また、OECD諸国から非OECD諸国への廃棄物取引も禁止される。この転移ついて付記すると、19943月の第2回締約国会議(ジュネーブ)において、(i)OECD諸国から非OECD諸国への最終処分目的での有害廃棄物の越境移動を直ちに禁止する、(ii)OECD諸国から非OECD諸国への再生利用及び回収目的での有害廃棄物の越境移動を19971231日までに段階的に削減し、同日付で禁止する、旨の締約国決定が採択された。しかしながら、19959月の第3回締約国会議(ジュネーブ)で、1994年会議における決定の法的拘束力について先進国から疑念が示された、そこで、先進国と途上国の間の有害廃棄物の越境移動の禁止について、条第約17条により、概ねこの決定を条約化する趣旨で条約改正が行われた。本改正が発効するためには、本会性の採択時の締約国62国の4分の3により批准されなければならない。2002619日現在改正条約を批准・加入している国は39カ国、1国際機関(EC)にとどまっている(日本は未加入)

 次に、本条約の有害廃棄物の管理に関する基本目的は、「有害廃棄物の越境移動の減少及び移動に対する有効な規制」である。締約国がこの目的達成のためにとるべき適切な措置は、国内における廃棄物発生の最小化であり(第4条2項(a))、また、廃棄物発生地国における処分原則である(第42(b)(d))。締約国は、国内における廃棄物管理上の義務として、廃棄物の減量を図り、適切な処分場が利用することができるならば自国で処理することにより、越境移動を減少する責任を有することになる。次に、締約国の国際的な義務は、有害廃棄物の「環境上適正な管理」義務である。その具体的な内容は、まず、締約国が輸出されることになる有害廃棄物が輸入国又は他の場所において環境上適正な方法で処理されること(第48項)、有害廃棄物の環境上適正な方法で処理できない場合に、管理を確保する発生地国の義務を輸入国又は通過国に移転してはならないこと(第410項)、環境上適正な処理がなされえない場合には、他国への輸出又は他国からの輸入を認めてはならない(第42(e))ということである2122

 

 

四 紛争解決制度と損害賠償責任議定書

 

 1)バーゼル条約第20条に定める紛争の解決

環境関係条約の一典型としてのバーゼル条約は幾つかの特徴を有するものであるが、とくに「継続的合意形成条項」が盛り込まれていることに特色がある。この条項には、損害賠償責任レジームの確立をとおして、「環境保護に関する実効的な損害賠償レジームを構築するためには、損害賠償に関する特定の国家の責任を実証してゆく必要」があり、この必要性に対処する現実的な手法がこのような条項、いわゆる「枠組条約」シムテムの採用であった。

環境関係条約としてのバーゼル条約は、領域概念の強調という主権国家の並存を前提とする国際社会の枠組の下で、地球規模の環境保護の問題を処理せざるを得ないのである。したがって、バーゼル条約が地球的な規模の協力関係の中で環境破壊を防止するという目的の実現するためには条約の実効性を確保しなければならないのであり、民事賠償責任レジームと主権国家間の権利と義務の調整のための紛争解決システムの確立が必要不可欠となる。

バーゼル条約第20条は、「紛争の解決」について、以下のように定める。

 1 この条約又は議定書の解釈、適用又は遵守に関して締約国間で紛争が生じた場合には、当該締約国は、交渉又はその選択する他の平和的な手段により紛争の解決に努める。

2 関係締約国が1に規定する手段により紛争を解決することができないときは、紛争は、国際司法裁判所に付託し又は仲裁に関する附属書Yに規定する条件に従い仲裁に付する。もっとも、紛争を国際司法裁判所へ付託し又は仲裁に付することについて合意に達しなかった場合においても、当該締約国は、1に規定する手段のいずれかにより紛争を解決するため引き続き努力する責任を免れない。

3 国及び政治統合又は経済統合のための機関は、この条約の基準、受諾、承認若しくは正式確認若しくはこれへの加入の際に又はその後いつでも、同1の義務を受諾する締約国との関係において紛争の解決のための次のいずれかの手段を当然にかつ特別の合意なしに義務的であると認めることを宣言することができる。

(a) 国際司法裁判所への紛争の付託

(b) 附属書Yに規定する手続に従う仲裁

その宣言は、事務局に対し書面によって通告するものとし、事務局は、これを締約国に送付する。

この規定からも読みとれるように、バーゼル条約における現行の紛争解決メカニズムは、二段階の手続からなる。すなわち、(1)交渉又はその選択する他の平和的・友誼的な手段であり、この手段により解決を得ないときには、(2)締約国間で合意が存するときには、国際司法裁判所への紛争の付託、または、附属書Yに規定する手続に従う仲裁である。また、国際司法裁判所また仲裁への付託について合意をえられないときでも、締約国は平和的な手段または国際司法裁判所と仲裁への付託による紛争解決の努力義務を有する。さらに、同一の義務を受諾する締約国との関係において、紛争解決のために特別の合意なしに国際司法裁判所と仲裁への付託による紛争解決を義務的であると宣言することができるとしている。

このように、バーゼル条約による紛争解決システムは、伝統的な国際法上の紛争解決手続としての、非拘束的また非強制的な手続にとどまり、WTOの紛争解決メカニズムのような強制的管轄権を有しない。それゆえ、条約の遵守と履行により実効性を確保し、条約の理念を実現することを希求する締約国にとっては、条約の履行の監視を求め、条約の強い紛争解決のメカニズムを要請することとなる。

また、バーゼル条約の現行の紛争解決のメカニズムは、強制的な履行確保の手段を持ち合わせていない。枠組条約の利を得て、「環境保護に関する実効的な民事損害賠償のレジーム」を構築してゆくためには、締約国会議により求められる、法律作業部会による締約国に向けられるバーゼル条約の紛争解決レジームのあり方に対する意見聴取も含めて、バーゼル条約の履行と遵守のメカニズムの確立及び条約第20条に定める紛争解決方法の再検討と将来の構築に向けての作業が開始されたのである23

 

 2)法律作業部会及び諮問サブグループによる紛争解決メカニズムの分析

ジュネーブで20001012日より13日まで開催されたバーゼル条約法律作業部会第2回会合において、事務局は、すべての締約国に回付される文書を準備した。暫定的な議事日程第6項で、バーゼル条約第20条に定められた紛争解決方法の分析が検討対象とされたが、結局、法律作業部会では、条約の履行と遵守のメカニズムに関する議論にかかわる問題であるだけに、紛争解決のメカニズムの争点に関する最終的な決定をすることを延期した。

 第5回締約国会議は、その決定により、法律作業部会に対して、条約第20条の下での紛争解決を分析する問題についてさらに考慮をなし、この問題に関する将来の作業についてアドバイスするよう求めた。また、その決定は、紛争解決に関連する一連の諸問題に未だ回答しなかった当事者に対して、この問題の進歩を容易にすることを促している。

 バーゼル条約事務局は、締約国に対して、2回(2000年2月8日及び同年427日)紛争解決に関連して一連の質問書を回付した。これには6ヵ国だけが回答した。これらの当事国とは、オーストラリア、デンマーク、ヨーロッパ評議会、アイスランド、イスライル及びイギリスである。

 回答した6ヵ国のうちオーストラリアをはじめとする4締約国は、バーゼル条約第20条に規定される紛争解決メカニズムが締約国の現実の必要に十分応えるものであり、また、それゆえ改正される必要がないとの見解を表明し、バーゼル条約第20条に含まれる紛争解決メカニズムに満足する。この4ヵ国のうちの2ヵ国は、それを締約国に強制的にすることとなる第20条の下での紛争解決手続のあらゆる改正に異議を述べる。

 これらの締約国は、バーゼル条約にかかる見解や意見の相違と不一致を友誼裡に解決することを優先すると強調した(イスライル)。また、最終的に、これら4ヵ国のうちの1ヵ国は、それらの事項が同意に基づき、かつ、非対立的な仕方で解決さるべきことに選好を表明した。この理由で、− この締約国の見解では −、潜在的な紛争の解決を可能にする最良の手段は、忠告的また便宜的遵守と履行メカニズムである。結論として、この締約国は、法律作業部会の現在の作業としてバーゼル条約の遵守メカニズムを発展することを強く支持した(イギリス)。

 これに対して、デンマーク及びヨーロッパ評議会の2ヵ国だけがすべての締約国に強制的であり、その結果において拘束的であろうより強力なメカニズムの導入に賛成する。強制的なメカニズムに賛同するこれら2ヵ国のうち一国の締約国であるデンマークは、バーゼル条約に関する紛争に関する実務上の何らの経験も有していなかったことを認めながらも、遵守メカニズム及び実効的な紛争解決メカニズムが「全体的な遵守と履行の包み」の補充的な構成要素であると考える。この締約国は述べた。− ひとたび遵守メカニズムが展開されると、履行問題が紛争に変化する前に、遵守メカニズムが履行問題を処理するであろうことを期待するのが合理的である。しかしながら、紛争が関連する締約当事国間で、遵守メカニズムの下で回避されまたは対応しえないならば、もしくは、別段の形で、同意を求める(consensusseeking)また非対立的な(nonconfrontational)方途で解決されえないならば、強制的なまた拘束的な紛争解決メカニズムが紛争状態にある争点の最終的な決定を提供するであろう。強い紛争解決と遵守のメカニズムは − この締約当事国の見解においては −、このようにして相互に支持されるものである。

 これらの締約当事国は、強制的なメカニズムの賛成のための第二の論拠を提出する。すなわち、有害廃棄物に関連して現れうるすべての紛争がバーゼル条約の中で解決されるために、少なくとも、バーゼル条約が世界貿易機関(WTO)のそれと同様の強力なメカニズムを有することが必要であると。

 

3)バーゼル損害賠償責任議定書

 バーゼル条約第12条では、「締約国は、有害廃棄物及び他の廃棄物の国境を越える移動及び処分から生ずる損害に対する責任及び賠償の分野において適当な規則及び手続を定める議定書をできる限り速やかに採択するため、協力する」旨の規定が定められている。198955日におけるバーゼル条約の発効後、1993年に至り、バーゼル条約を実効性あらしめ、迅速な救済を確保する必要からバーゼル損害賠償責任議定書の協議は、具体的には、発展途上国が行ってきた、有害廃棄物の不法な投棄もしくは偶然に生ずる流失に対処するための資金と技術の欠如の懸念に答えて開始されたものである。

 1990年からの外交交渉と検討の結果、損害賠償に関する議定書については、加害者側に厳し過ぎる責任を課すことになることを避けたい先進国側と、できるだけ厳しい損害賠償責任を定めることを求める途上国側との間で対立があった。19991210日に開催された第5回締約国会議(COP 5(バーゼル)において、有害廃棄物の越境移動及びその処分に伴って生じた損害についての賠償責任と補償の枠組みを定めた『有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分から生ずる損害に関する責任及び賠償に関するバーゼル議定書』(以下、「バーゼル損害賠償責任議定書」という)が採択された。まず、その目的は、有害廃棄物及びその他の廃棄物の越境移動とその処分から生ずる損害に対する責任と適切かつ迅速な賠償に関する包括的制度を提供することである。

 そして、バーゼル損害賠償責任議定書の主な内容は、以下のとおりである24)

(1)損害の定義 本議定書の対象となる損害とは、@人身損害、A財産損害、B環境の損傷の結果生じた、何らかの形での環境の利用によって得べかりし経済的利益の損失、C損傷した環境の回復措置費用、D未然予防措置費用であり、かつ、バーゼル条約にしたがった有害廃棄物等の国境を越えた移動並びに処分の対象になる廃棄物の有害性に起因するものをいう(第2条)

(2)時間的適用の範囲 本議定書は、有害廃棄物が輸出国の領域内で輸送手段に積載される地点から適用が開始され、原則としてバーゼル条約6条9項に基づく処分の完了の通報がなされたときまで、または、そのような通報がなされなかったときには、処分の完了時まで適用される(第3条2項)。但し、締約国は寄託者への通報により輸出国領域内を適用から除外でき、また、有害廃棄物の一時保管等一部の処分に関しては、その後の処分が完了するまで適用される(第12条1項)。

(3)場所的適用の範囲 本議定書には、適用範囲について画期的な規定が存在する。すなわち、まず、本議定書は、締約国の国家主権(排他的経済水域含む)の下にある地域で発生した損害に適用される。但し、その例外として、損害の発生が公海上であっても、人身損害、財産損害及び回復措置費用に関しては本議定書が適用される。さらに、附属書Aに掲げられた小島喚国.(AOSIS)に関しては、通過国であるこれらの国の領域内で損害が発生した場合、仮に本議定書の非締約国であっても、議定書が損害に適用される(第3条2項)。この点に関し、このようなことは国際法の一般原則に反すると先進国側から批判があったが、先進国側と途上国側の妥協の産物として挿入されたものである。

(4)条約第1条1項(b)廃棄物の扱い バーゼル条約第1条1項(b)は、各締約国において国内法令により有害廃棄物と定義したものに関しても同条約の適用があるとする。本議定書においては、これらの廃棄物から起因する損害についても議定書の対象とするものの、適用範囲を、廃棄物であると指定した国の領域内で損害が生じた場合のみに限定し、かつ、指定した国側の業者のみが適用対象となるように定め(第3条5項(b))、被害者側の損害補償の必要性と加害者側の利益保護のバラソスを図った。

 (5)議定書の適用除外 この除外規定は、EU等先進諸国と途上国諸国との間で最後まで意見が対立した論点の一つである。条約第11条により締結された、有害廃棄物等の越境移動に関して二国間、多数国間又は地域的な協定又は取極に従った越境移動間に発生した損害に関しては、損害がそれらの協定等を締結している議定書締約国の領域内で発生し、かつ、右損害に関して被害者にハイレベルな補償を提供することにより本議定書の目的と完全に適合するか、または、本議定書を超える損害賠償制度を有している場合は、本議定書の適用を除外する(第3条6項)

(6)厳格厳責任の原則 `処分者が廃棄物を占有するまでは、条約第6条に基づいて通報を行った者(通報者)が責任を負う。輸出国が通報者の場合又は通報がなかった場合は、輸出者が責任を負う。一方、処分者が廃棄物を占有した時点以後は、処分者が責任を負う。本議定書が通報者、処分者等に課す責任は、無過失責任であって、責任者は自己に過失がないことを証明しても責任を免れることはできない(第4条)

(7)責任限度額及、強制保険制度並びに財政メカニズム 各締約国は、本議定書の下での厳格責任である賠償責任について、国内法により上限額を定める必要がある。議定書は、各国が法令により定めることのできる最高上限額を規定する。通報者及び輸出者に関しては、取り扱う当該廃棄物の量に比例して、一万ユニット(ユニットとは、IMFの定める「特別引出権」)から最高30万ユニットまで定められており、処分者に関しては一律2万ユニットと定められている(12 条附属書B)。そして、第4条により責任を負う者は、右上限額までは、保険契約の締結等確実に支払が確保できる財政措置を講じる義務を有する(14条1項)。しかし、過失責任については、上限はない(第12条)。

また、財政メカニズムは、先進国と途上国との間で最後まで対立した論点の一つであったといわれる。途上国側は、本議定書において新しく基金を設立し、損害補償が十分になされなかった場合は、その基金から補填すべきであると主張し、他方、わが国を含む先進国側は、新しい基金を設立するだけの必要性が不明であると反対した。結局、双方が妥協した結果、基金の新規創設はなくなったが、本議定書に基づく損害がカバーされない場合は、既存のメカニズム(条約のCOP1決定で設けられた技術協力支援のための技術協力基金)を使用した追加的・補完的な措置が講ぜられる旨が規定された(15)

(8)裁判管轄と外国判決の承認・執行 本議定書で認める賠償請求については、被害者救済の観点から、損害発生地国、事故発生地国又は被告住所地国のいずれかの国の国内裁判所に申し立てることができるという偏在理論を採用した、また、各締約国にこの請求を受理する必要な裁判管轄権を設ける義務を定めた(17)。複数の締約国で関連する訴訟が提起される場合には、最初に事件を係属した裁判所を除く他の訴訟を停止すると定める(第18条)。また、請求に関する実体または手続のすべての事項については、法の抵触に関する規定を含め法廷地法が適用される(第19条)。本議定書により管轄権を有する外国裁判所により下された判決は、その判決が詐欺によって取得された場合等を除き、各締約国はその効力を承認し、執行力を有する(21)

(9)発効日 本議定書は、20番目の批准書等を寄託者が受領した後90日目の日に発効することとなっている(第29条)。

2)発効期限と批准状況

このバーゼル損害賠償責任議定書は、20001210日までニュー・ヨークにその本部を有する国際連合本部におけるその署名のために開かれてきた。バーゼル損害賠償責任議定書は有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分から生ずる損害賠償のみならず、回復措置費用と防止措置費用の支弁について無過失責任を認めるのであり(議定書第4条)、こうした責任を問うあり方がこの領域における国際的な潮流に成るべきであると考える。しかしながら、バーゼル条約損害賠償責任議定書の署名状況を見ると、すこぶるかんばしくない。

バーゼル損害賠償責任議定書の目的は、これらの廃棄物の不法な輸送が原因で生じた事件を含め、国境を越える有害廃棄物また他の廃棄物の移動から生ずる損害の適正かつ迅速な賠償と責任に関する包括的なレジームを提供することである。本議定書は、ある事件が生じた場合に財政的に責任を有する者に対して向けられている。国境を越える移動の各局面、すなわち廃棄物が輸送手段に積み込まれた点から、その輸出、国際的な通過、輸入及び最終的な処分までが考慮された。

締約国第五回会議は、また、本バーゼル損害賠償責任議定書が発効するまでの緊急の必要性ある事態に対処するための暫定的合意に関する決定をも採択した。

しかしながら、本議定書については、20001210日のタイムリミットまでに署名した国は、西ヨーロッパ及び他の諸地域では、デンマーク、フィンランド、フランス、ルクセンブルグ、モナコ、スウェーデン、スイス、大ブリテン連邦王国であり、中央及び東ヨーロッパでは、ハンガリー及びマケドニア前ユーゴスラビア共和国、ラテン・アメリカ及びカリブ海諸国では、チリー、コロンビア、コスタ・リカの13カ国にとどまった。本議定書が発効しないことは、バーゼル条約の実効性が不十分であることを意味する。バーゼル損害賠償席に議定書のみならず環境保全を目的とする条約全般において、実効性を確保する前途は相当に厳しい25)

 

 

 おわりに

  バーゼル条約は誕生して間もない。地球環境の保護という最も切実な課題を実現するために、既に、地球環境関連条約である多国・地域・二国間条約、国際連合の決定及び宣言、その他の数多くの国際機構また国家の勧告、決定及び宣言が存在し、また、IMO条約、国連海洋法条約、UNEP・陸上起因ガイドライン、そしてアジェンダ21などの一般的な、さらに、船舶起因汚染、ロンドン海洋汚染条約などの投棄起因汚染、海洋汚染事故の事項に関連する海洋環境に関連する条約、また、ライン川汚染防止国際委員会協定、ライン川化学汚染防止条約、ヘルシンキ条約などの国際河川・湖沼に関連する条約、またわが国で開催されたことからも注目を集めた気候変動枠組条約、京都議定書などの大気汚染の事項に係る条約、また本稿の主たる検討対象であるバーゼル条約、EC・特定産業活動に関するセベソ指令をはじめとする有害廃棄物に関連する条約、また、ラムサール条約、ワシントン条約、世界遺産条約、生物多様性条約、砂漠化対処条約などの自然保護関連条約などが存在する26)

 しかしながら、これらの条約の存在にもかかわらず、近年の国際社会のキーワードが地球環境保護であるように、オゾン層は一層破壊され、地球の温暖化は加速し、海面は上昇し、南極をはじめとする地域の氷河は氷解し、有害化学物質により広範囲に汚染され、大気も酸性雨にとどまらず、工場及び自動車から排出されるガスにより汚染・汚濁され続けている。希少種の絶滅にとどまらず、植物を含む生物の生存の危機的状況がさらに悪化しつつある。条約の実効性が確保されていないのである。

 人類に明日はあるのか。危機が目の前にある。差し迫っている地球環境破壊に対応すべく、その法的解決のために多種多様の条約、決定、宣言の存在する。しかしながら、環境破壊に歯止めがかかっているとは思われない。とするならば、条約等のルールの実体的・手続的領域を合せて、それらの実効性を確保するために最大の考慮を払うことが不可欠であると考える。主権国家の並存と主権の不可侵を前提とする伝統的な国際法は、国家の権利と義務の調整のためのルールとそれに伴う紛争解決方法の提供にとどまっていた。有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約は、「地球環境保護」に関する実効的な損害賠償レジームを構築するだけにとどまらず、枠組条約であることの意味を生かして、さらに、「地球環境保護」の実質的な目的を達成するための拘束的・恐慌的レジームを希求すべきであるように思われる。

 2001911日、ニューヨークの貿易センタービルがテロにより破壊されるという惨事が生じてから1周年となる。アメリカ合衆国や国民のこの事件に対する怒りや憎悪は消えることは決してないであろう。しかし、もっと、空の高いところを見つめる必要がある。酸性雨、気象異常、オゾン層の崩壊がそこにはある。そして、足下にも目を向けなければならない。有害産業廃棄物や放射性物質のみならずその物質で汚染された水や土壌があふれている。見えない地中にも、自らの作り出した悪魔たちは忍び込んでいるのである。

200292日、「持続可能か開発に関する世界首脳会議(環境開発サミット)において、「世界実施文書」(ヨハネスブルグ実施計画)が合意をみた。その過程において、再生可能エネルギーの供給量の比率を増加させることなどに積極的な欧州連合の提案は、その数値に合理性がないというアメリカ合衆国による激しい反論を受けたといわれる。この首脳会議に欠席したアメリカ合衆国のブッシュ大統領とは違い、ドイツのゲアハルト・シュレーダー首相による「子供たちが感謝する地球に」と題する演説には心を打たれるものがある。そのすべてを紹介できないのが残念であるが、その一部を紹介する。

「欧州や中国の洪水は、人命を奪い、一夜にして町を破壊した。それは  恐るべき暴力だっただけではなく、自然が人間に発した警告でもあった。  地球は一つしかないのだということを肝に銘じなければならない。

  我々と子どもや孫たちが生き残れるかどうかは、この限りある資源をい  かに大切に使うかにかかっている。人々が発展と繁栄を獲得する権利と、  地球を守る義務をどう調和させるかだ。 ・・・

 米同時多発テロの衝撃は、テロに立ち向かう国々や社会をお互いに近づ  けた。同時に、平和と安全が軍事力と警察力だけでは得られないこともは  っきりした。経済のグローバル化と国際テロの間に直接的な関係がないと  しても、世界規模の安全保障を実現するためには、世界の公平さを議論し  なければならない。

経済的、環境的、社会的な観点を包含する、新たな安全保障の概念が必  要だ。ヨハネスブルクではその方向性を示す必要がある。

   グローバル経済は、我々が影響力を行使できない自然現象ではなく、政  治的な意思を持って構築すべき経済と貿易、通信のネットワークである。  できるだけ多くの人がグローバル化の果実を手にするようルールを整えな  ければならない」27)

 

新たな安全保障の概念がどのように表現されようと、われわれには、愛すべき自然の中で、他の生物と共生する倫理感をまず喪失しないことが求められている。

 

 

附録1:アジェンダ21行動計画  

20章 有害廃棄物の違法な国際的移動の防止を含む、有害廃棄物の環境上適圧な管理28

A.有害廃棄物の防止及び削減の促進

 199110月にわが国の廃棄物処理の一般法である「廃棄物の処理及び清掃に関する法律について、適正処理の確保、減量化の推進、処理施設の確保等を柱として大幅な改正を行い、19927月に施行した。

 この改正により、有害廃棄物を含めた廃棄物の排出事業者の責務規定を改正し、廃棄物の減量化や.適正処理の確保のための国や地方公共団体の施策に協力すべき義務を果たすとともに、多量に廃棄物を排出する事業者に対して、都道府県知事・市町村長が減量化計画等の作成を指示できることとした。

 一方、発生した有害廃棄物を環境上適正に処理するためには廃棄物処理施設の確保が重要であることから、19925月に「産業廃棄物の処理に係る特定施設の整備の促進に関する法律」を制定し、有害廃棄物を減量化、無害化するための施設等の設置を促進することとした。

 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

[1]排出事業者の責任による有害廃棄物処理を徹底する。

[2]今後、上記の法に基づく施策を積極約に推進することにより、有害廃棄  物の減量化、無害化を推進する。

[3]有害廃棄物の発生の防止及び削減を一層促進するため、環境上適正な廃  棄物低減技術、再生技術等の研究開発及びその導入普及を図る。

B.有害廃棄物管理のための組織・制度的能力の促進と強化

  廃棄物処理法では、毒性、感染性その他の人の健康又は生活環境に係る被 害を生ずるおそれがある性状を有する廃棄物を特別管理廃棄物として指定  し、その排出から最終処分に至るまで厳しく管理している。

  わが国としては、以下に示す取組を重点的に実施していく。

[1]有害廃棄物の管理を今後一層推進していくため、順次特別管理廃棄物の  指定品目の拡大を図るとともに、こうした動きと合わせて処理基準及び廃  棄物処理施設の構造・維持管理基準等について所要の見直しを行う。

[2]廃棄物処理法の実施主体である都道府県等にたいしては、引き続き技術  的及び財政約な支援を行うことにより、有害廃棄物の管理のための組織・  制度約能力の促進と強化を図る。

[3]特別管理産業廃棄物を生ずる事業場に対する管理責任者の設置、事業者  が他人に特別管理産業業廃棄物の処理を委託する場合のマニュフェストの  交付、特別管理産業廃棄物を取り扱うことができる業者の許可等の廃棄物  処理法の諸規定の施行により、有害廃棄物管理のため組織・制度約な能力  の向上を図る。併せて、国と地方公共団体はマニフェストをコンピュータ  等で管理し、適正な指導を強化できるよう検討を行っていく。

[4]199110月の廃棄物処理法の改正により特別の管理を要する廃棄物等  の処理を実施するために都道府県ごとに廃棄物処理センターを指定をでき  ることになっている。当該制度を活用し有害産業廃棄物についても、地方  公共団体の参画を得つつ、その処理能力向上を推進する。

[5]廃棄物の処理のための設備等の普及促進を図るため、引き続き税制及び  財政上の措置を講じる。

. 有害廃棄物の国境を越える移動の管理に関する国際協力の促進及び強化

 わが国は、「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約(バーゼル条約)1993年に加入した。わが国は、同条約を実施するための国内法である「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に開する法律」及び関係法令等の的確な実施により、バーゼル条約の規定に基づき、適正処理能力に欠ける国及び有害廃棄物の輸入禁止国に対する有害廃棄物の輸出を禁止するなどの措置を講ずるとともに、リサイクル目的の有害廃棄物の輸出入に当たっては、バーゼル条約で規定する手続きを厳格に適用している。

 現在、わが国は、米国、東南アジア諸国等との間で、リサイクル可能な廃棄物を資源として輸出入している。リサイクル目的の有害廃棄物の貿易は、環境上適正な方法で行われるものであれば、資源の有効利用にも貢献し、途上国の持続可能な開発にも資するものであり、これはバーゼル条約の趣旨に合致したものであると考える

 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

[1]リサイクル目的の有害廃棄物の貿易が環境上適正な方法で行われること  が重要であり、その観点からも環境上適正な処理のための技術ガイドライ  ンの策定作業を、十分慎重に行っていく。

[2]将来起こり得る廃棄物汚染に適切に対処できるよう、バーゼル条約の下  で行われている責任及び補償に関する議定書の作成作業の重要性を認識   し、積極約に取り組んでいく。

[3]廃棄物の分類、その有害特牲の判定のための試験方法及び基準等に関し  て諸外国と情報交換を積極的に行っていく。

[4]開発途上国がバーゼル条約により求められている廃棄物管理能力を得ら  れるよう、多国間・二国間の協力に努力していく。

D.有害廃棄物の不法な国際移動の防止

 以下に記す取組を重点的に実施していく。

[1]有害廃棄物の違法な越境移動の防止を図るため、バーゼル条約の的確な  実施とともに、同条約の国内担保法である「特定有害廃棄物等の輸出入等  の規制に関する法律」及び廃棄物についての輸出入の規制が改正によって  新たに加えられた「廃棄物の処理及び清掃に開する法律」の的確かつ円滑  な実施等により、有害廃棄物の移動が同条約の規定に従って行われること  を確保し、不法取引に対してはこれを適切に処罰するための罰則を定めて  おり、また、人の健康又は生活環境に係る被害を防止するため特に必要が  ある場合には有害廃棄物の回収、または適正な処分のための措置命令等を  発動する。

[2]バーゼル条約を実効あるものとするため、有害廃棄物の越境移動に関す  るデータベースの整備、人材の育成等有害廃棄物の越境移動に関する情報  管理体制の整備を行い、関係国家、バーゼル条約事務局、国連環境計画   (UNEP)、地域経済委員会等との緊密な連携を図る。

 

 

附録2:環境上健全な管理に関するバーゼル宣言

  ※1999126日より10日まで開催されたバーゼル条約第5回締約国会議において宣言された「環境上健全な管理に関するバーゼル宣言(Basel Declaration on Environmentally Sound Management)」の翻訳である。

 

 我々、各国の閣僚及び他の代表団の長は、

スイスのバーゼルにおいて、1999126日より10日まで、バーゼル条約の締約国第五回会議及びバーゼル条約採択10周年記念日の機会に会合した、

有害廃棄物の環境上の不健全な管理により惹き起された環境への損害及び人間の健康への有害な結果の継続する危険について関心を有しており、

バーゼル条約の最初の10年間になされた関係する努力にもかかわらず、有害廃棄物の発生は、グローバルなレヴェルで成長し続け、また、有害廃棄物の越境移動が依然として関心事項であることを認識し、

私的な部門および非政府組織との連携の重要性を、さらに認識して、

バーゼル条約の最初の10年間の成果に基づき、

1.有害廃棄物及び他の廃棄物の環境上健全な管理が、そのような有害廃棄物の最少化及び能力形成の強化を強調するすべての締約国に利用可能となりうるとの見解を明言して、

2.最初の10年間のバーゼル条約の履行状況における進歩及びさらなる発展を省みて、例えば、越境移動のための管理体制の発展と採用、有害廃棄物の一覧表及びモデル立法、改正条約並びに訓練と技術移転のための地域的及び小地域的センターの確立などの重要な事項の成就がなされてきたこと、また、バーゼル条約の発効以来、締約国の数が非常に増大してきたと結論し、

3.バーゼル条約の基本的な目的、換言すれば、バーゼル条約に服する有害廃棄物及び他の廃棄物の越境移動の減少、それらの廃棄物の予防と最少化、そのような廃棄物の環境上健全な管理並びによりクリーンな技術の運送と使用の積極的な促進を再確認し、

4.持続可能な開発への我々の言明とリオ宣言、アジェンダ21及び国連総会の1997年第19回特別会期により採択された綱領のそのさらなる履行のための十分な支持を繰り返して、

5.バーゼル条約及びその改正の批准または加入を促進することにより、また、その義務の実効的な履行また遵守を確保することにより、バーゼル条約の普遍性を確保するためのあらゆる努力をなすことを引き受けること、

6.次の10年間のうちに、我々の活動をあらゆるレヴェルで、バーゼル条約及びその改正の履行を促進するための特別な諸活動に焦点を置く必要を認識し、また、この目的で、以下に掲げる分野で環境上健全な管理を成就するための我々の努力と協働を高揚し、強化することに合意する。

(a)社会的、技術的また経済的関心事を考慮に入れて、バーゼル条約に服する有害廃棄物及び他の廃棄物の防止、最少化、リサイクル、回収並びに処分

(b)バーゼル条約に服する有害廃棄物及び他の廃棄物の防止及び最少化の目的で、よりクリーンな技術と生産の積極的な促進と使用

(c)実効性のある管理の必要、自給自足と接近性の諸原則並びに回復とリサイクルの優先性の必要を考慮に入れて、バーゼル条約に服する有害廃棄物及び他の廃棄物の越境移動のさらなる減少

(d)不法な運送の防止と監視

(e)環境上健全な技術の発展と移転と同様に、特に発展途上国及び経済の変動する諸国への制度的及び技術的な能力形成の改良と促進

(f)訓練と技術移転のための地域的及び小地域的センターのさらなる発展

(g)あらゆる社会的部門において情報交換、教育、知識把握を高揚すること  

(h)あらゆるレヴェルで、諸国家、公的機関、国際組織、産業部門、非政府組織、及び、学術研究所間の協働及び連携

(i)バーゼル条約及びその改正の遵守、並びに監視と実効的な履行のメカニズムの発展

7.小規模及び中規模の企業の必要性を考慮に入れて、選択された国々と諸地域において、公的または私的な連携により財政上裏づけられたものを含め、有害廃棄物の環境上健全な管理及びそれらの最少化を論証するための現在の科学技術水準に関するパイロット事業と最良の利用可能な技術の発展を援助すること、また、これらのパイロット事業が有害廃棄物の備蓄の環境上健全な処分に関する問題を考慮することに合意する。

8.これらの実効的な履行のための、また、国際的な財政上の諸制度を含む資金を得るためのあらゆる淵源にアクセスするために増大する努力の必要を認める。また、加えて、有害廃棄物の最少化と環境上健全な管理を促進し、この分野における投資のための機会を提供する市場の諸力を利用するであろう策略を発展する必要性を認める。

9.締約国会議の決定(V/33)は、環境上健全な管理に関する今後10年間の我々の議事日程を構成する。

  

環境上健全な管理

管理と同所に言及される諸目的を再肯定すること

1.バーゼル条約の以後の10年間、以下に掲げる諸領域において、以下の諸行動が環境上健全な管理を実現するためになされるべきものと決定する。

(a)社会的、技術的かつ経済的関心事を配慮して、バーゼル条約に服する有害廃棄物及び他の廃棄物の防止、最少化、リサイクル、回収並びに処分

廃棄物の防止と最少化を強調して、異なる地域及び地区の能力と特殊性を配慮して、有害廃棄物及び他の廃棄物の環境上健全な管理のためのコンセプトと計画の作成。すべての国々における、また、あらゆるレヴェルでの、能力形成、知識把握並びに教育を含む、あらゆるレヴェルの政府組織と利害関係人と連携して、環境上健全な廃棄物の管理を鼓舞するための意欲の促進

   バーゼル条約に服する有害廃棄物及び他の廃棄物の最少化及び環境上健全かつ実効的な管理のために持続可能かつ自給自足的な解決方法を認識する目的に鑑み、そのような手段が経済的に生育しうると同様に、余力があり、かつ、社会的に受け容れられるかを念頭において、財政上及び他の経済的な手段とコンセプトの促進、並びに、そのような手段とその適用についての情報の交換

(b)バーゼル条約に服する有害廃棄物及び他の廃棄物の防止と最少化の目的でのよりクリーンな技術の積極的な促進と使用

バーゼル条約に服する有害廃棄物及び他の廃棄物の最少化及び管理に関する分野における、情報と知識を享有し、諸活動を能率化するために、地域的及び小地域的なセンターの経験と専門を有するよりクリーンな生産のセンター及び同類の施設の訓練と技術移転のための協働

(c)実効性のある管理の必要、自給自足と接近性の諸原則並びに回復とリサイクルの優先性の必要を考慮に入れて、バーゼル条約に服する有害廃棄物及び他の廃棄物の越境移動のさらなる減少

有害廃棄物の環境上健全な管理、人間の健康の保護、自給自足と接近性の諸原則並びに回復とリサイクルの優先性の必要を考慮に入れて、越境移動を最小限に減少させることを目的とする発意の促進及び締約国の技術的な必要性と一致して

(d)不法な運送の防止と監視

バーゼル条約に服する有害廃棄物及び他の廃棄物の不法な運送を認識し、監視し、また、防止するために、特に税関及び執行官吏の訓練において、国際刑事警察組織及び世界関税組織との不断の協働

不法な運送と申し立てられた事件に対応し、また、締約国が不法な運送を防止し、認識し、監視し、並びに、解決することに助力する諸手続きの採択

締約国が不法な運送を防止し、監視することが可能となるように、訓練と技術移転のための地域的かつ小地域的なセンターを制度的に強化すること

(e)環境上健全な技術の発展と移転と同様に、特に発展途上国及び経済の変動する諸国への制度的及び技術的な能力形成の改良と促進

法律的及び制度的な事項における能力形成と援助に関して、法律的な手段の発展と実効的な履行、バーゼル条約に服する有害廃棄物及び他の廃棄物の環境上健全な管理のための制度的なインフラを形成し、強化すること、並びに、それらの越境移動の最少化と管理

技術的な事項における能力形成と援助に関して、バーゼル条約に服する有害廃棄物及び他の廃棄物の取扱い及びノウハウと技術の移転のための手段を形成し、改良することに助力すること。また、小規模及び中規模の企業の必要性を考慮して、特に発展途上国及び経済の変動する諸国による使用のための適切な道具、措置並びに啓発を含む越境移動に服するいずれも国家的に生み出された有害廃棄物及び他の廃棄物の最少化と環境上健全な管理の実務上の履行のための戦略の前進と改良

(f)訓練と技術移転のための地域的及び小地域的センターのさらなる発展情報交換における異なる地域のセンターの役割と諸活動が強化され、また、すべての利害関係人に利用可能となるべきこと、並びに、地域的センターが徐々に、廃棄物の最少化及び環境上健全な技術と専門知識に関する訓練、公衆の知育及び情報の交換に関する諸活動に関与するようになるべきことを念頭において、バーゼル条約の履行及び最少化の方法における、また、財政上の自給自足性を目指して、バーゼル条約に服する有害廃棄物及び他の廃棄物の環境上健全な管理におけるそれらの重要な役割を確保する目的で、訓練及び技術移転のための地域的また小地域的センター及び技術的センターの諸活動の強化を確立すること  

廃棄物管理において最良の実務の、特に発展途上国及び経済の変動する諸国における現存する諸例についての情報の収集と伝播

廃棄物の最少化の方法と環境上健全な管理と解決方法の発展のための、産業との提携を含む、必要とされる場合の異なる提携の容易化

(g)あらゆる社会的部門において情報交換、教育、知識把握を高揚すること

    バーゼル条約の履行において得られた知識と経験を伝播するために、改良されたアクセスを含む、事務局により展開された現存する情報するシステムの高揚。

廃棄物に関連する諸問題に利用可能な専門知識と解決方法に関する情報を提供し、また、このために地域的なセンターの役割を強化するために世界的な広がりを持った情報システムの発展と展開

必要がある場合には、特に越境移動に対する管理、有害廃棄物及び他の廃棄物の不法な運送の監視と防止を含む、有害廃棄物の環境上健全な管理を履行するために訓練が必要とされること、また、なかんずく、その訓練には、実務志向のセミナーと作業場と同様、政府官庁と産業界の間の提携における内部的訓練を含みうる、また、訓練のための地域的なセンターの能力と経験並びに技術移転が十分に使用され、高揚されることを念頭におきながら、権限を有する官庁の職員、執行官吏並びに他の重要な行為者(例えば、排出者、輸送者、処分者、再利用者)を訓練すること

そのような努力が有害廃棄物の最少化及びバーゼル条約に服する有害廃棄物及び他の廃棄物の環境上健全な管理に関連する企業の情報を含みうることを念頭におきながら、教育的な諸制度と同様、あらゆる利害関係人を含む、特に地域的な、小地域的なまた地方的なレヴェルでの、廃棄物に関連する諸問題に関する公的な教育と知識と情報の促進

(h)あらゆるレヴェルで、諸国家、公的機関、国際組織、産業部門、非政府組織、及び、学術研究所間の協働及び連携

バーゼル条約の履行のための異なる地域及び部局の多様な経験、必要性並びに利害関係を含めるための、すべての利害関係人との携帯の高揚。他の利害関係人と協働するために、また、よりクリーンな技術の応用を含む、バーゼル条約に服する有害廃棄物及び他の廃棄物の管理における経験と専門知識に貢献するために、私的また公的部門への刺激の鼓舞と規定

    バーゼル条約とその改正の履行に関連する活動的な国際連合の諸組織と事務局間の協働の高揚。これには、持続可能な発展の分野において活動的な国連の諸機関との協働を含み、締約国の国家的な環境上の管理及び持続可能な発展計画における有害廃棄物の環境上健全な管理への政策の合体,並びに、国連環境計画と国連産業発展組織によるクリーンな生産についての共同計画などの、よりクリーンな生産についての関連する計画の共同を前進することであることを念頭において、特に永続的な組織的汚染者、廃棄された殺虫剤及びその他の化学的物質に関する共通の利益を有する分野における、国際環境計画及び国連食料農業機関などの組織と協働する共同の諸活動と諸計画に着手すること

() バーゼル条約及びその改正の遵守、並びに監視と実効的な履行のメカニズムの発展

条約及びその改正並びに要請される締約国への援助に関する規程上の諸義務の実効的な履行と遵守の促進。第六回締約国会議により考慮されるための、条約の遵守と履行を容易にし、また、監視するために企図されたメカニズムの作業の完遂、これには遵守の完遂をするメカニズム、紛争解決の手続き及び不法な運送の事例を予防し、認識し、また、解決するために諸国を援助するためのガイドラインを含むことを念頭において

2.偶発的な緊急事態計画の発展を含む、有害廃棄物またその他の有害廃棄物の環境上健全な管理、及び、よりクリーンな生産の分野における最新の技術に基づく、パイロット計画を発展する目的で、諸国または諸地域での廃棄物の流れの選択についての作業を行うよう技術作業部会に要請する。

3.これらの諸活動を履行するために、財政的な淵源及びメカニズムへのアクセスが不可欠であること、また、それゆえ、以下に掲げる諸活動がなされるべきであると、さらに決定する。

(a)グローバル環境施設などの国際的な諸団体により基金の提供を受けるための国連環境計画との共同の諸計画の発展,並びに、他の国際的な財政上のメカニズムへのアクセスを容易にすること

(b)環境上健全な管理と廃棄物の最少化を促進し、この分野における投資の機会を提供するために市場の力を利用することとなる財政上の戦略の発展を刺激すること

(c)基金調達の刷新した方法を含む、バーゼル条約の諸取引及び諸活動のための財政上の戦略の発展

4.拡大事務局の指導の下で、締約国会議の下部諸組織に、さらに本決定の附属書に列挙された2000年から2002年までの間の諸活動を作成し、また、優先順位をつけること、並びに、作業計画の作成及び採択の間、できる限り実行可能な上記の諸目的を履行する方向に作業を開始することを要請する。

5.また、第六回締約国会議による考慮及び採択のために、すべての下部組織に2010年までの期間、明示的な作業計画を含む、戦略的計画を準備すること、本決定に言及される諸目的に対応すること、並びに、2003年から2004年までの間本決定に基づく作業の領域により作業の計画を発展することを要請する。

6.環境上健全な管理に関して次の10年間議事の履行の進行について締約国会議に定期的な情報を提供することを要請する。

7.事務局に、上述された作業のために必要とされる情報を収集し、伝播すること、並びに、関係する当事者との接触を調整することを要請する。

8.20002月末までに附加された附属書に関する事務局にコメントを提供するよう促す。



1「日の出一般廃棄物処分場事件」については、1998年1月17日に開催された研究会において、樋渡俊一弁護士から法律問題と廃棄物処理制度についてご報告を得た。

2)大川真郎『豊島産業廃棄物不法投棄事件』(日本評論社,2001

3)『高校生のための現代社会』(朝日新聞社発行)。

4)『環境法辞典』(有斐閣,2002)による。この宣言の全文の翻訳については、『地球環境条約集』[第3版](中央法規,1999)を参照・引用した。 

5)ビル・モイヤーズ編(粥川準二、山口剛共訳)『有害ゴミの国際ビジネス』(技術と人間,1995)。 

6フィリピンの「有害物質・核廃棄物管理法」(共和国法RA6969)については、http//www.mars.dti.ne.jp/frhikaru/philippine/harardwaste.html臼杵知史(石野=磯崎=岩間=臼杵)『国際環境事件案内』(信山社,2001196頁。

7)日本弁護士連合会公害対策・環境保全委員階編『日本の公害輸出と環境破壊』(日本評論社,1991)。

8)進藤雄介『地球環境問題とは何か』(時事通信社,2000114頁以下。OECD(環境庁地球環境部監訳)『OECD:貿易と環境』(中央法規,1995)、高月紘=酒井伸一『有害廃棄物』(中央法規,1993

9)東京海上火災保険株式会社『環境リスクと環境法』(有斐閣,1992110頁より引用した。http://es.epa.gov/oeca/oere/851121.html.山本浩美『アメリカ環境訴訟法』(弘文堂,200232頁以下、また環境法に基づく市民訴訟については、115頁以下参照。

10http://www.gepc.or.jp/doc.pub/book-NoO20/USA-072.html2002/08/28http://www.rrrgrjp/iso/ogawa/papercp42.html, 小田『アメリカ環境訴訟法』前掲45頁以下。

11『環境リスクと環境法(欧州・国際編)』(有斐閣,1996)、河内俊秀『環境先進国と日本』(自治体研究所,1998)、関東弁護士会連合会 公害対策・環境保全委員会編『弁護士がみた北欧の環境戦略と日本』(自治体研究所,2001)。

12)原則の起源・展開及び基本的な考え方については、水上千之『国際環境法』(水上=西野=臼杵編著)214頁以下。

13)『環境リスクと環境法』前掲40頁以下、クリス・ポット(川村=三浦監訳)「EU環境法の新展開」国際商事法務304号(2002436頁以下。

14「祝えるものではないが」朝日新聞、200296日社説、渡邊頼純(佐々波楊子=中北徹編著)『WTOで何が変わるか』(日本評論社,1997161頁以下。

15)川瀬剛志「地域経済統合における自由貿易と地球環境保護の法的調整」貿易と関税第4812号、49巻1号(20002001年)参照。

16)渡邊頼純「貿易と環境の政治経済学」(佐々波楊子=中北徹編著)『WTOで何が変わったか』(日本評論社,1997161頁以下参照。

17臼杵知史「有害廃棄物の越境移動とその処分の規制に間する条約(1989年バーゼル条約)について」国際法外交雑誌第913号(199244頁以下、井上秀典「有害廃棄物の国境を越える移動に関する国際的・国内的法的枠組み」片岡寛光編『現代行政国家と政策過程』(1994219頁以下、井上秀典「バーゼル条約と国内法」『環境法研究20号』(人間環境問題研究会)(1992)、高村ゆかり「有害廃棄物に関するバーゼル条約」『国際環境法』(水上=西井=臼杵編著)(有信堂,200175頁以下。臼杵知史「廃棄物の国際管理」『開発と環境』187頁以下(三省堂,2001)など。

18http://www.basel.int/about.html.http://www.unep.ch/basel/

19 http://kjs.nagaokaut.acjp/mikami/STS/PRTR/note.htm2002/08/29).

 

20http://www.unep.ch/basel/.htm.『バーゼル条約国内法令集』(財団法人日本環境衛生センター,1994) 。(なお、バーゼル条約は、地球環境法研究会編『地球環境条約集』(中央法規出版)に所収されている。輸入状況については、http://www.pc-room.co.jp/sankan/000619/v009.htm

21)他国との協定や取決めによる規制の強化もあるし、場合による投資協定による緩和も見逃しえない所である。この点について、臼杵「廃棄物の国際管理」前掲書201頁以下。

21)日本は、OECD諸国間で取り決めを締結している。その結果として、平成13年度における特定有害廃棄物等の輸出入の状況をみると、相手国からの通告総量7,088トン、輸出承認の重量2,029トンである(平成9年度の通告総量12,466トン、輸出承認9,559トン)、輸入相手国は、マレーシア、シンガポール、フィリピンが中心で、その他フランスやオランダである。対象物:ブラウン管のくず、有銀残滓、使用済み触媒などである。これに対して、相手国への通告総量946トン、輸出承認1,446トン(平成9年度のそれらは、4,120トン、6,390トン)、輸出相手国は、韓国、米国、ベルギー、カナダの4ヶ国にとどまる。対象物:レンズ付きのフィルムや鉛のスクラップ、ハンダのくずなどであり、処分目的は、再利用、リサイクル、コバルト、鉛、錫の回収である。

22http//www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/jyoyaku/basel.html (2002/09/05)

23)拙稿「バーゼル条約の紛争解決メカニズム」『民事法の諸問題]』(専修大学法学研究所所報,2001)。

24)坂井博「バーゼル条約損害賠償責任議定書の成立過程と概要」ジュリスト117482頁(2000)。高村かおり「有害廃棄物に関するバーゼル条約」『国際環境法』(水上)ほか編著)85頁以下

25)http://www.unep.ch/basel/ratif/ratif.htmlhttp://www.basel.int/Protocol/prptodes.html

26)地球環境問題に関する世界各地の情報へのリンク集として、http://erc.pref.fukui.jp/topic/earth.html

27)朝日新聞20029212版。

28http://www.k-t-r.co.jp/agennda20.html